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白糠から世界へ

x Happy
10月2日
読了時間: 3分

更新日:10月3日





北海道・白糠。


冬の朝、雪の向こうから巨大なボーリングマシンの音が聞こえていた。


「ずいぶん地味な学校を選んだな」


友人にはそう言われた。


けれど彼は笑った。


「上を見る仕事はたくさんある。でも、俺は下を見てみたいんだ。地球の下には、まだ知らないものがあるから」


🎼彼が入ったのは、掘削技術を学ぶ専門学校だった。🎼


最初に覚えたのは、派手な技術ではなかった。


ボルトの締め方。 泥水の状態。 地層の読み方。 機械の音の違い。


そして何より、安全確認。


教官は何度も言った。


「掘ることより、無事に帰ってくることのほうが大事だ」


北海道の寒風の中、何度も機械を動かした。


手袋は油で黒くなった。


それでも面白かった。


地面の下には、何百万年という時間が重なっている。


♪掘削とは、地球の歴史に細い穴を開ける仕事なのだ。


卒業後、彼は日本の掘削会社に入った。


温泉井。 地質調査。 そして地熱井。


現場では学校とは違うことばかりだった。


ある日、ベテラン技術者が機械の音を聞いて言った。


「少し変だな」


計器には、まだ大きな変化はない。


しかし数分後、本当に掘削状態が変化した。


彼は驚いた。


「どうして分かったんですか?」


ベテランは笑った。


「機械はしゃべるんだよ。長く一緒にいるとな」


その日から彼は、数字だけでなく音、振動、匂い、泥の変化まで見るようになった。


5年後。


一通のメールが届いた。


INDONESIA — GEOTHERMAL PROJECT


インドネシアの地熱開発プロジェクトへの参加要請だった。


初めての海外現場。


現地には、日本人だけではない。


インドネシア人。 オーストラリア人。 フィリピン人。 ヨーロッパの技術者。


共通語は英語だった。


彼の英語は完璧ではなかった。


最初のミーティングでは半分しか分からない。


それでも、掘削機の前に立つと話は変わった。


「Pressure?」


「Stable.」


「Mud?」


「Good.」


機械と数字は、世界共通だった。


やがて彼は気づいた。


世界で働くために必要なのは、完璧な英語だけではない。


『この人となら安全に仕事ができる』と思ってもらうことだ。


それから彼の仕事場は広がった。


♪インドネシアの火山地帯。


♬オーストラリアの赤い大地。


🎵アフリカでは、水を求めて井戸を掘った。


🎵中東では、巨大な掘削設備を見上げた。


国が変わっても、朝の仕事は同じだった。


ヘルメットをかぶる。


安全靴を確認する。


仲間の顔を見る。


そして地下へ向かう。


あるアフリカの村で、水井戸から初めて水が出た。


子どもたちが歓声を上げた。


彼は泥だらけの作業着のまま、その光景を見ていた。


そのとき、ふと思い出した。


北海道・白糠。


雪の中で初めて触ったボーリングマシン。


教官の言葉。


「掘ることより、無事に帰ることのほうが大事だ」


さらに年月が過ぎた。



🎼今度は彼が若い技術者たちに教える立場になった。


現場には、日本人の若者もいた。


「どうしたら海外で働けますか?」


そう聞かれ、彼は少し考えた。


そして答えた。


「世界へ行こうと思いすぎなくていいよ」


「え?」


「目の前の一本を、ちゃんと掘るんだ。それを続けていると、いつの間にか世界のほうが仕事を持ってくる」


若者は笑った。


「先輩はどこから始めたんですか?」


彼も笑った。


「北海道の小さな町だよ」


「どこです?」


「白糠」


遠くで巨大な掘削機が動き始めた。


ゴォン、ゴォン――。


昔、北海道で聞いた音と同じだった。


彼は地面を見た。


北海道も、インドネシアも、アフリカも、中東も。


地上には国境がある。


けれど、


地面の下に国境はない。


白糠で覚えた技術は、 いつの間にか世界をつないでいた。




解説


業務用スーパーの創設者のつくった専門学校に興味があり、

そして白糠という場所も

なじみがあるで小説を書いてみました。



著作権ここにあり、転載不可

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