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🎼人生バランス

x Happy
1 時間前
読了時間: 4分

レストラン窓に、夜のローマの灯りが映っていた。


白いクロスの上には、赤ワインのグラスが二つ。


焼いたアーティチョークと、


白インゲン豆のピュレを添えた薄いパンが運ばれてきた。










「インターネットで見たの。


一定の収入の職業をいったん中止(辞めて)、


世界一周をしたいっていう20代の人の話」



ステラは、パンを一枚取った。



「若いうちに行きたいんでしょうね」



向かいのキャサリンがうなずいた。



「その気持ちは分かるの。


でも、帰ってきた後はどうするんだろうって、私はそちらを考えてしまう」



「旅の写真には、帰った後の生活までは写らないものね」



「そう。最後晩年は自分の国に戻って暮らす人も多いでしょう。


日本なら公的な医療保険の仕組みもあるし、言葉も通じる。


でも、戻れば生活が全部整うわけではないわよね」



キャサリンは、ワインをひと口飲んだ。



「住む場所も、生活費も必要だしね」



「健康で過ごして、最後はピンピンコロリならいいけれど……


そんなふうになるか、誰にも分からないでしょう」



ステラの声が少し小さくなった。



「病気になるかもしれない。


長く誰かの助けが必要になるかもしれない。


そう考えると、今あるお金を全部、旅に使う気にはなれないの」



「でも、将来が全部分かるまで待ったら、出発できないわ」



「そうなのよ」



二人は顔を見合わせた。どちらも正しいようで、


その間に自分の暮らしを置くのが難しかった。



キャサリンがアーティチョークを切り分けた。



「若い時にしかできない旅もあると思う。


重い荷物を背負って歩くとか、相部屋で知らない人と朝まで話すとか。


年を取ってからも旅はできるけれど、同じ旅にはならないでしょうね」



「だから、行くなとも言えないの。ただ、親御さんは心配するだろうなって」



「帰ってこられるのか。困った時はどうするのか、って?」



「ええ。十八歳くらいまで育ててもらって、


(大学進学ならそれ以上、アルバイトで生計たててがんばっているひともいるとは思うけど)


その後も気にかけてもらって。今度は親に介護が必要になるかもしれない。


自分の人生だから自由に、だけで済むのかなと思うの」



キャサリンは少し考えてから、グラスを置いた。



「親の介護を全部引き受けるために、夢を諦めなければいけないとも思わないわ。


でも、何も相談せずに出発して、


困ったら親に頼るつもりなら、


親も落ち着かないでしょうね」



「そうね。旅の行き先より先に、


話しておくことがあるのかもしれない、


でも若いと、先に話すことすら想像ができないこともある」



「費用をどう用意するか。いつまで行くか。


帰ってから何をするか。


親に何かあったら、どう連絡を取るか。


その話ができたら、送り出す気持ちも少し変わると思う」



隣のテーブルから、小さな笑い声が聞こえた。


店主が二人の皿を下げ、ティラミスと白いレモンクッキーを置いた。





ステラはクッキーを半分に割った。



「それでも私は、本や映像で見るだけで十分な場所も多いと思うの。


全部体験しようとしたら、きりがないもの。


世界の次は宇宙に行きたくなるかもしれない」




キャサリンが笑った。



「このティラミスを食べながら、宇宙の映像を見る夜も、私は好きよ」





「わたしも。天の川がいいわ、満点の星」



「ただ、一つだけ、どうしても行きたい場所が残るなら、


そのために準備するのはいいと思う」



「世界一周ではなくても?」



「ええ。一か国でも、一つの街でも。そこで過ごしたかった一週間があれば」



ステラは窓の外を見た。石畳を歩く二人連れが、店の前で立ち止まり、メニューをのぞいていた。



🎼「私、夢を小さくしたら、負けたように感じるのかもしれない」



「誰に?」



そう聞かれて、ステラは返事に詰まった。



「……インターネットで見た、知らない人たちかしら」



キャサリンは何も言わず、ティラミスをひと口食べた。



しばらくして、ステラもスプーンを取った。





「私は、帰ってから家で安心して眠れるくらいのお金は残したい。


親のことも話してから行きたい。それで行ける範囲を考えればいいのね」



「うん。その範囲で、十分楽しめるかもしれない」



「若さも大切にして、将来も粗末にしない。難しいけれど」



「だから時々、考え直すんでしょうね。こうして、おいしいものを食べながら」



ステラは残りのクッキーを口に運んだ。薄い砂糖の甘さの後に、レモンの香りがした。



「まずは一週間の旅を考えてみようかな。」



「どこへ?」



「まだ決めない。今夜は、このワインを飲み終えてから

(頭の中には計画とその想像がいっぱいだった)」



キャサリンは笑って、グラスを少し持ち上げた。 



キャサリンの想像、時短なら旅は四人でタクシーね。
キャサリンの想像、時短なら旅は四人でタクシーね。

つづく



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