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台湾の思い出・スタンバイチケット

x Happy
8月14日
読了時間: 6分

ローマの夜。



La Stregaのテーブルには、よく冷えた白ワインと、


ヴィオラが作った小さな前菜が並んでいた。



香草を添えた鶏肉、少しだけ五香粉を忍ばせた肉料理


揚げたての小さなおつまみ。




「今夜は、ほんの少し台湾を意識してみましたわよ」♪



ヴィオラがそう話していましたっと、


ウエイトレスが伝えると、


一人の客が懐かしそうに笑った。



「台湾か……。僕は台北には一日しか滞在しなかったんですよ」



向かいの客が驚いた。



「一日だけ?」



「そう。そもそも台湾へ旅行する予定じゃなかったんです」



「じゃあ、どうして台北へ?」



男はワインを一口飲んでから、苦笑した。



「厄介なスタンバイチケットのせいですよ」



「スタンバイチケット?」



「正式に“厄介なスタンバイチケット”という航空券があるわけじゃないですよ」



男は笑った。



「僕が勝手にそう呼んでいるだけです」



そして説明した。



スタンバイというのは、簡単に言えば、



その便に空席があれば乗れる。



そんな搭乗方法だ。



とくに航空会社の社員やその家族などが利用する優待搭乗では、通常の予約客が優先される。



だから、空港まで行っても満席なら乗れない。



「つまり、“飛行機のチケットを持っているから予定どおり帰れる”とは限らないんです」



「それは厄介だ」



「でしょう?」



男は笑った。



「それで香港で足止めを食らってしまった」



予定していた香港発の便に乗れない。



次の便も難しい。



その次も確実ではない。



空港で空席状況を調べながら、



――どうやったら帰れる?



と考える。



そして、ようやく見つけたルートが、



台北経由だった。



「だから僕にとって台湾は、“行こうと思って行った場所”じゃないんです」



「飛行機に乗れなかったから行った場所?」



「そういうこと」



二人は笑った。



「でもね」



男はグラスを置いた。



♪「そういう旅のほうが、不思議と覚えているんですよ」




台北に着いたとき、男に与えられた時間は一日だけだった。



ホテルでゆっくりしている場合ではない。



荷物を置いて、すぐ街へ出た。



最初に驚いたのは、スクーターの音だった。



信号が赤になる。



交差点の前にスクーターが次々と集まってくる。



そして青になった瞬間、



ブーン――。



何十台ものスクーターが一斉に走り出す。



「ローマにもスクーターは多いけれど、台北はまた違うんです」



「どう違うの?」



「街の音の一部になっている感じかな」



そして歩いていると、今度は匂いがやってくる。



焼いた肉。



揚げ物。



八角や香辛料。



甘いお菓子。



湯気を立てる料理。



知らない漢字の看板。



小さな店の前で料理を食べている人たち。



「一日しかないから、何でも見たくなるんですよ」



「忙しい旅行ね」



「ものすごく忙しい」



そう言って男は笑った。



「でも、その忙しさが楽しかった」






そして夕方。



♬男は猫空へ向かった。



ロープウェイに乗る。



ゴンドラがゆっくりと高度を上げていく。



眼下には深い緑。



その向こうには台北の街が広がっていた。



さっきまでスクーターの音に囲まれていたのに、山へ近づくにつれて街の喧騒が遠くなる。



「一日の中で、あんなに街の表情が変わるとは思わなかった」



猫空茶坊
猫空茶坊

猫空に着くと、男は一軒の茶藝館へ入った。


急須。


小さな茶杯。


茶葉に湯が注がれる。


ふわっと立ち上る香り。


一煎目。



そして二煎目。


「急いで観光していたのに、そこで初めて時計を見るのをやめたんです」


窓の外では太陽が傾き始めていた。


明るかった山の緑が、少しずつ金色になる。


空は黄色から橙色へ。


橙色から淡い紫へ。



小さな茶杯を手にしたまま、男は何もせず日没を眺めていた。



「そのとき思ったんですよ」



「何を?」



「香港で足止めされなかったら、僕は今ここにいなかったんだなって」





La Stregaのテーブルに、しばらく静かな時間が流れた。



ウエイターが白ワインを注ぎ足した。



「つまり、あんなに腹が立ったスタンバイチケットが、猫空へ連れていってくれたのね」



「結果的にはね」



男は笑った。



「だから今となっては、“厄介な”という言葉も半分は冗談♪です」




そして台湾には、もう一つ忘れられない景色があった。



🎼それは【別の日】に訪れた虎山からの夜景だった。



夕暮れのあと、少し汗をかきながら歩いて高いところまで登る。



木々の間から街の光が見え始める。



そして視界が開けたところで振り返ると――



台北101。





暗い夜空を背景に、巨大な塔が光っていた。


その周囲には台北の無数の灯り。


道路を流れる車の光。


遠くまで続く建物。


猫空で見た台北とは、まるで別の街だった。


「猫空ではね、街が夜になっていくところを見たんです」



男は言った。



「お茶を飲みながら、夕陽が沈んで、一つずつ街の灯りが増えていく」



「虎山は?」



「虎山では、もう完全に夜になった台北を見る」



男は少し考えてから続けた。



「猫空は、お茶の香りと夕暮れの記憶。虎山は、夜の空気と台北101の記憶ですね」



そのころウエイトレスがデザートを運んできた。


透明な器に入った白桃のパンナコッタ。


横には小さなジェラート。







🎼「台湾のデザートじゃないんですね」🎼



男が笑った。



ウエイトレスは困ったような顔をした。



「ヴィオラはあなたの台湾の話を聞いてから準備したんだもの。


台湾デザートまでは間に合わなかったわ。次回ぜひ またご予約くださいね。」



そして胸を張った。



「それに、La Stregaはイタリアンですから」

(後日台湾スイーツフェアを開催することに・・・)



三人が笑った。



男は白桃のパンナコッタを一口食べた。



そして、もう一度あの日を思い出した。



香港の空港で、



「なんて厄介なチケットなんだ」



と思っていた自分。



空席を探し、



予定を変更し、



仕方なく台北を経由した自分。



それなのに今、記憶に残っているのは、そんな苛立ちではなかった。



信号が変わった瞬間に走り出すスクーター。



屋台から漂ってきた香辛料の匂い。



猫空へ上っていくロープウェイ。



茶藝館の小さな茶杯。



夕陽に染まる山。



そして別の日、虎山から見た台北101。





「旅って、おかしいですね」



男が言った。



「何が?」



「予定どおりにいかなかったことが、あとになって一番いい思い出になったりする」



向かいの客がグラスを持ち上げた。



「じゃあ、その厄介なスタンバイチケットに乾杯しましょう」



「それは嫌だな」



男は笑った。



それでもグラスを持ち上げた。



「……まあ、今夜だけは乾杯してやるか」



二つのグラスが、小さく触れ合った。



人生には、



行こうと思って行く場所と、


行くはずではなかったのに辿り着く場所がある。



一日しかいなかった街。



予定外の乗り継ぎ。



偶然乗ったロープウェイ。



一杯のお茶。



けれど、そんな寄り道が、



何年経っても色褪せない景色を残してくれることがある。



🎼男にとって台北は、そんな街だった。



La Stregaの窓の外にはローマの夜。



けれど男の記憶の中では今も、



猫空の山の向こうへ、



台湾の夕陽がゆっくりと沈んでいた。



後日、ヴィオラは台湾のスイーツフェアを開催することに・・・・


(イタリアンレストランですけどね。( ̄∇ ̄;)ハッハッハ)







解説


自分の歯で一生美味しいものを食べるという

目的で、歯科治療のお仕事をしています。


今回は台湾のスイーツを特集してみました。




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