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建物からの手紙

x Happy
9月27日
読了時間: 4分

著作権ここにあり
著作権ここにあり

ローマの夜。


La Stregaの暖炉には、小さな火が入っていた。


半個室に座っていたのは、二人の建築家だった。




テーブルにはキアンティ・クラシコ。 つまみはパルミジャーノ、オリーブ、薄く切った生ハム。 温かい料理はない。


一人がワインを飲みながら言った。


「この前、築50年ほどのSRCの建物を見たんです。


🎼 地下の天井から、白いつららみたいなものが伸びていました」


年上の建築家が頷いた。


🎼「石灰つららだね。 小さな鍾乳洞みたいなものだ」これは、めずらしいよね。。。


鍾乳洞を想像する二人。。。





世界の鍾乳洞は頭から消して・・・・

コンクリートの話に戻るよ・・・・




「コンクリートなのに?」


「水がコンクリートの中を通って、カルシウム分を運ぶ。


それが外へ染み出し、空気に触れて白い物質として析出する。


それが長く続けば、つららのようになることがある」


「じゃあ、危険な建物ですか?」


「それだけでは決められないよ。 大切なのは、つららを取ることじゃない。


なぜ、そこを水が通っているのかを調べることだ」


建築家はグラスを置いた。


「屋上防水なのか。


外壁のひび割れなのか。


配管なのか。


地下水なのか。


♬石灰つららは犯人ではない。


【建物からの手紙】なんだ。


『ここを長い間、水が通っていますよ』というね」


もう一人の建築家はオリーブを一粒つまんだ。


「でも不思議ですね。 頑丈なSRCが築50年で傷んでいるのに、 木造で100年以上残っている建物もある」


「そこが面白いんだ」


年上の建築家は笑った。


「SRCは確かに強い。 大きな建物を造れるし、耐火や遮音にも利点がある。


でも、強い材料を使えば、 手入れをしなくてもいいわけではない」


「木造は逆ですか?」


「ある意味ではね。 木は、水や湿気に弱い。 腐朽やシロアリにも気をつけなければならない。


だからこそ―― 木を長く持たせる方法は、かなりはっきりしている」


「どうするんです?」


建築家は指を一本立てた。


「まず、水を入れない。


屋根を健全に保つ。 雨樋を詰まらせない。


外壁や窓まわりの傷みを放置しない。


雨漏りを見つけたら、早く原因を直す」


二本目の指を立てた。


「次に、湿気を溜めない。


床下や小屋裏を湿ったままにしない。


換気を確保して、結露を繰り返させない。


水まわりからの漏水にも注意する」


「北海道みたいな寒い地域なら、結露も重要ですね」


「もちろん。 断熱と気密、それに換気のバランスが悪ければ、


見えない壁の中で結露することもある。


外から入る雨だけを見ていてはいけないんだ」


三本目。


「そして、木そのものを見る。


土台や柱に腐朽がないか。 シロアリなどの被害がないか。


屋根、外壁、基礎まわりに異常がないか。


数年ごとに点検して、 小さな異常のうちに手を入れる」


「100年間、一度も壊さないということではない?」


建築家は笑った。


「まったく逆だよ。


100年持たせるというのは、 100年間、何もしないことじゃない。


傷んだところを直しながら、 100年間使い続けることなんだ」


二人の間に少し沈黙があった。


暖炉の薪が、パチッと鳴った。


「木造の良さは、そこかもしれませんね」


「そう思うよ。 傷んだ板を替える。 屋根を直す。


外壁を補修する。 必要なら一部の木材を交換する。


建物全部を捨てるのではなく、


悪くなった部分を直して次の世代へ渡していく」


男はワインを一口飲んだ。


「じゃあ、築50年のSRCより、 築100年の木造のほうが状態がいいこともある?」


🎼「十分あり得る。


ただし、木造だから100年持ったわけじゃない。


雨を防いだ。 湿気を逃がした。


シロアリや腐朽を見た。 屋根や外壁を直した。


そして、小さな異常を放置しなかった。


それを何代もの人間が続けた結果だ」


建築家は最後のパルミジャーノを二つに割り、 一つを相手の皿に置いた。


「建物の寿命を決めるものは、 材料の強さだけじゃないんだ」


「では、何でしょう」


「水と、時間と、人の手だよ」


La Stregaの外では雨が降っていた。


築50年のコンクリートにも、 築100年の木にも、 同じ雨が降る。


けれど、建物の寿命を分けるのは、 雨が降ったことではない。


その水をどう逃がしたか。


小さな傷みに、いつ気づいたか。


そして、誰かが手を入れ続けたか、、、、、、







100年生きる木の家とは、 100年間傷まなかった家ではない。


100年間、傷みを見つけてもらい、


直してもらいながら生きてきた家なのだ。


二人はしばらく話さなかった。


キアンティ・クラシコの向こうで、 暖炉の火だけが静かに揺れていた。



解説


SRCの石灰つららは大変めずらしいといわれています。

木造建築の良さも書いてみました。





著作権ここにあり、転載不可


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