幸福論(ミツバチ編)
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- 4月14日
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更新日:4月16日
「蜜の記憶 ― 満ちていく体」
朝の光が、やわらかく花びらに降りてくるころ、私は目を覚ます。
世界はすでに香りで満ちている。

甘く、深く、どこか懐かしい——蜜の気配。
羽を震わせ、私は空へとほどける。
香りに導かれるまま、一輪の花へ。
白い花の奥に顔を差し入れた瞬間、
とろりとした甘さが、舌の先に触れた。
——ああ、満ちていく。
蜜は静かに、しかし確かに、体の奥へと流れ込んでくる。
空だったはずの内側が、ゆっくりと温かく膨らんでいく。
それはただの栄養ではない。
太陽の時間、土の記憶、花が生きた証。
それらが一滴ずつ、私の中に積もっていく。
もう一口。
また一口。
気づけば、羽の震えが少しだけゆるやかになる。
世界の輪郭が、やわらかく丸くなる。
——足りた。
その感覚は、突然ではなく、
じんわりと広がる。
空腹のときには鋭かった香りも、
今はどこか穏やかで、遠く感じる。
体の奥が満ちている。
動かなくてもいいような、
このまま花の中で眠ってしまいたくなるような静けさ。
私は花の奥から顔を上げる。
光が少しだけ強く感じるのは、
きっと、内側が満たされたからだ。
——ありがとう。
誰にともなく、そう思う。
花に、風に、この朝に。
ありがとう、、この上ない幸せ。
それでも私は、また羽を震わせる。
満腹であっても、終わりではない。
ここからが本当のお仕事なのだ。
この満ちた体を、
巣へ運ぶために。
仲間たちと分かち合うために。
飛び立つと、風がやさしく背を押した。
体は重いはずなのに、どこか安心している。
満ちている、ということは——
こんなにも静かで、やわらかいのだ。
私は知る。
甘さは、ただ味わうためだけではなく、
心までも満たすものだということを。
そしてまた、次の花へ。
今度は少しゆっくりと、
その余韻を抱いたまま。
解説
外勤のミツバチは、仲間にダンスで場所を教え、集団でその場所へいき、
蜜を集めます。
一生を通じて集める蜜の量はスプーン一杯ほど。


