イソッタ
- x Happy
- 5月3日
- 読了時間: 3分
更新日:5月18日
春のやわらかな風が吹く、イタリアの小さな街。石畳の路地にはレモンの香りが漂い、窓辺には色とりどりの花が揺れていました。
その街のはずれに、「笑顔の扉」と呼ばれる不思議なカフェがありました。
看板には、少し傾いた文字でこう書かれています。
―― “Dove c’è sorriso, arriva fortuna.”
(微笑みのある場所に、幸せはやってくる)
ある日、イソッタはいつものように不思議な穴に落ちて…
(いつもの不思議の国のアリス風)
気がつくと、そのカフェの前に立っていました。
「ここ、どこかしら?」
ドアを開けると、カランコロンと鈴が鳴り、
陽気な音楽とともに陽だまりのような空気が広がります。
中では、トマトのように赤い頬をしたシェフのウサギが、
陽気に歌いながらパスタを作っていました。
「ようこそ!笑顔を持ってきたかい?」

イソッタは少し戸惑いながらも、にっこり微笑みました。
すると――
テーブルの上のパンがふわっと膨らみ、
ワイングラスがきらりと輝き、
窓から差し込む光が、さらに温かくなったのです。
「まぁ…どうして?」
奥の席でエスプレッソを飲んでいた帽子屋が、
にやりと笑いました。
「この店はね、笑顔で味が変わるんだよ。しかめっ面じゃ、
どんな料理もただの料理。でも笑えば…魔法がかかる」
そこへ、ちょっと不機嫌そうな猫が入ってきました。
しっぽを揺らしながら、ぶつぶつ文句を言っています。
「今日もツイてない、魚も逃げたし、昼寝もできなかったし…」
シェフがそっと一皿のリゾットを出します。
でも猫は一口食べて、顔をしかめました。
「なんだこれ、全然美味しくない!」
イソッタはそっと隣に座り、優しく言いました。
「少しだけ、笑ってみたらどうかしら?」
「こんな日に笑えるかい!」
「じゃあ…ほんの少しだけでも」
猫は渋々、口の端を少しだけ上げました。
その瞬間――
リゾットからふわっと香りが立ち上り、
チーズがとろりと輝き、
猫の目が丸くなりました。
「……あれ?」
もう一口。
「……美味しい」
さらに一口。
「すごく美味しい!」
気づけば猫は、にこにこと笑いながら食べていました。
店中の空気が、ぱっと明るくなります。
シェフのウサギがくるりと回って言いました。
「ほらね、“笑顔の場所に福来る”っていうのは、本当なんだ」
イソッタはカフェの窓の外を見ました。
街の人たちが笑いながら歩いています。
パン屋も、花屋も、子どもたちも――
笑顔が、まるで光のように街を満たしていました。
「笑顔って…幸せを呼ぶんじゃなくて、
もうそこにある幸せに気づかせてくれるのかもしれないわね」
帽子屋がカップを掲げます。
「その通り。だから――笑った者勝ちさ」
イソッタも小さく笑って、エスプレッソを一口。
ほんのり苦くて、でもどこか優しい味がしました。
そして帰る頃、カフェの看板は少しだけ輝いて見えました。
―― “笑顔のある場所に、福は自然と集まる”
その日からイソッタは、どんな世界に行っても、
まずは微笑むことを忘れなくなったのでした。
つづく


