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La Strega真実は叫ばない⑦・番地だけの家

x Happy
7月20日
読了時間: 5分

更新日:7月22日

 


翌朝のローマは、昨夜の雨が嘘のように晴れていた。


カフェのテラスでは、人々がエスプレッソを片手に新聞を読み、


街はいつもの賑わいを取り戻していた。



しかし、アレッシオの胸の中には、昨夜支配人から渡された一枚の紙が残っていた。


そこには、ただ一つ。


古い地区の番地だけ。


建物の名前も、住人の名前も書かれていない。




まるで、その場所を知る人だけが分かる合図のようだった。


アレッシオは急がなかった。


支配人の言葉が耳に残っている。



♬「行く日が来れば、その場所のほうから、


あなたを見つけます。」



だから彼は、紙を胸ポケットへしまい、街を歩き始めた。


古本屋。


花屋。


修理を終えたヴァイオリンを店先へ並べる職人。



ローマには、何十年も変わらない時間が流れているように思えた。


昼を過ぎた頃だった。


細い路地で、一人の老人が床へ鍵束を落とした。




アレッシオは拾い上げ、手渡す。


老人は礼を言う代わりに、小さく笑った。


「君は急いでいないようだ。」


「ええ。」


「急ぐ旅ではありませんから。」


老人は深くうなずいた。


「それなら、もうすぐだ。」


それだけ言うと、人混みの中へ消えていった。


アレッシオが目で 歩みの遅い老人をおいかけるも、、


不思議なことに、老人の姿はすでに見当たらなかった。


夕暮れ。


ティベレ川沿いを歩いていると、教会の鐘が六回鳴る。


その瞬間、胸ポケットの紙が風に揺れた。


風は一方向へ流れていく。


まるで道案内をしているようだった。


アレッシオは、その風に導かれるまま細い坂道へ入った。


古い石段を上る。


壁には蔦が絡まり、小さなランプが一つ灯っている。


そして石壁に、小さな真鍮の数字。





「27」






紙と同じ番地だった。


扉は閉まっていた。




呼び鈴もない。


ノッカーもない。


ただ、木の扉の中央に、小さなレモンの花の彫刻があるだけ。



そのとき、


陶器のレモンがゆれるのを感じた、、、



静かに震える陶器のレモンをポケットから取り出すと、



不思議なことが起きた。





夕陽が陶器を照らし、その底に刻まれた文字が淡く光る。



「静けさは、恐れだけでは生まれない。」




その光が扉へ映ると、内側からゆっくりと「鍵」が外れる音がした。


ガチャ・・・


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誰も姿を見せない。



しかし扉は、静かに開いた。


アレッシオはドアに向かっていった。


「すみません、こちら、LaStregaのレストランの方とお知り合いの


おたくでしょうか。わたしはアレッシオというものです、新聞記者です。


中にお邪魔していいでしょうか」





中は、驚くほど質素な部屋だった。

  

そして中の別のドアが向こうから開く音がした。


部屋の中をみわたして、人がでてくるのを待った。



本棚。


レモンの水彩画。




古い木の机。



窓辺には一輪の白いレモンの花。


そして、小さな丸い食卓。



そこには一人分だけ、夕食が用意されていた。


湯気の立つ皿からは、バジルの爽やかな香りが漂う。



♪料理は、


手打ちのトロフィエ、ジェノヴェーゼ。


鮮やかな緑のソースに、インゲンと小さなジャガイモ。


仕上げに削られたチーズが雪のように舞っていた。


皿の横には、小さなエスプレッソ。










豪華ではない。


けれど、一皿一皿に温かさが宿っていた。


具たっぷりミネストローネ、お母さんの味
具たっぷりミネストローネ、お母さんの味


その時、奥の部屋から年配の女性が現れた。



白いエプロンを身に着け、穏やかな微笑みを浮かべている。


「ようこそ。」


「お入りなさい。」


静かな声だった。


そこに立っていたのは、エレナの祖母、八十五歳のマリア。


白髪を後ろで丁寧に束ね、黒い服を身にまとっている。


その瞳だけは、不思議なほど澄んでいた。





「あなたが、アレッシオですね。」



『あなたはエレナと会いましたね、、』



彼は静かにうなずいた。




「ここでは質問を急いではいけません。」




「まずは温かいうちに、お召し上がりください。」



アレッシオは席に着く。



マリアは微笑む。



「食べながら聞いてください。」



「話というものは、お腹が満たされているほうが、心にも届くものです。」



普通の家庭料理。手打ちパスタの家庭料理がすばらしく美味しい、、、、。




まるで、「今夜は心を澄ませてほしい」と語りかけるような食卓だった。







フォークでトロフィエをひと巻きすると、バジルの香りが静かに立ち上る。


マリアは窓の外を眺めながら、小さくつぶやいた。


「昔、この家には毎週火曜日になると、何人もの人が集まっていました。」


「皆、職業も年齢も違いました。」


「けれど、帰る時には一つだけ同じものを持って帰ったのです。」


アレッシオは尋ねる。


「何を持って帰ったのですか。」


女性はゆっくりと振り返り、微笑んだ。


「勇気ではありません。勇気は人からもらうものではないから。」


「持ち帰ったのは……『一人ではない』という確信です。」



暖かな部屋に、エスプレッソの香りが静かに広がる。


窓の外では、ローマの夜がゆっくりと始まっていた。



そして、暖炉の上には一枚の古い写真が飾られていた。




そこに写る人々の中に、アレッシオは見覚えのある顔を見つける。




La Stregaの支配人だった。





しかし写真の日付は、四十年以上前を示していた。


アレッシオは写真から目を離せなかった。


物語は、さらに深い「時間の謎」へと静かに歩み始める。 


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この家だけが、トロペアのLa Strega 


と深くつながっている。


そして、この家に伝わる「名もなき勇気」がある。


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暖炉の薪が、小さく音を立てた。



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「ここではね、家族だけではありません。」


「洗礼親も家族でした。」


「困った時には真っ先に相談する人。」


「子どもの成長を祈り、人生を見守る人。」


「その絆は、とても温かいものでした。」


そして少し間を置いて、


「だからこそ、この土地では『家族』という言葉の重みが、


とても大きかったのです。」




アレッシオは「人と人との絆」


「名もなき勇気」を少し理解しつつあった、、、


con amore e rispetto




つづく

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