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La Strega真実は叫ばない⑩トロペアのレストランの秘密 

x Happy
7月20日
読了時間: 6分

更新日:7月23日

ー食事を終えたころ、マリアは暖炉の上の写真立てを静かに持ち上げた。



「この人をご存じですか。」



アレッシオは写真を受け取る。



若い男性。




少しぼやけた古い写真。



しかし、その笑顔には見覚えがあった。


「……。」


「まさか……。」


彼は思わず立ち上がる。


「La Stregaの……。」


マリアはゆっくりとうなずいた。


「そうです。」



「今の支配人です。」





「でも……どうして、この家に写真が……。」



マリアは暖炉の火を見つめながら話し始めた。




「昔、この人はまだ支配人ではありませんでした。」


「店の主人でもありません。」



「ただ一人の若い従業員でした。」



「私の息子……。」



「エレナの父です。」



「最初の仕事は、市場から魚や野菜を運ぶことでした。」



夜明け前の市場へ行き、



その日に一番良い魚を選び、



野菜を抱えて店へ戻る。



それが毎日の始まりだった。



「営業が終われば、最後まで残って床を磨きました。」



椅子を戻し、



テーブルを拭き、



誰もいなくなった厨房を掃除する。



「どんな仕事でも、


『ありがとう』と言っていました。」



マリアは少し笑う。



「誰よりも床をきれいに磨く人でした。」



やがて店の主人は、その姿を見て言った。



「料理は皿の上だけではない。」



「店を支える人すべてが、一皿を完成させている。」



その言葉を胸に、エレナの父は少しずつ信頼を重ねていった。



給仕を任され、



客を迎え、



やがて店全体を任されるようになる。





「あなたは、La Stregaはローマで始まったと思っていますね。」



アレッシオはうなずく。



「違うのですか。」



マリアは静かに微笑んだ。


「いいえ。」




「始まりは、もっと南です。」



「トロペアでした。」



お店の前にはローズマリーの小さな鉢を置いていた。


(マリアの祖母は、ルチアという名前でした。


ルチアの遠い記憶を大切にするために


マリアはローズマリーの小さな鉢植えを置いていました。)





マリアは、昔のことを回想する・・






トロペアの小さなレストラン 【La Strega】
トロペアの小さなレストラン 【La Strega】



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戦争が終わって間もない頃。




トロペアの港の近くには、小さな食堂があった。


トロペアのシンボル…サンタ マリア デル イゾーラ教会
トロペアのシンボル…サンタ マリア デル イゾーラ教会

名前は、


La Strega。



三つしかテーブルのない、


本当に小さな店 



私が料理をつくっていました。





朝、漁師が魚を持ち込み、


畑の人が野菜を運び、


近所の女性がパンを焼く。


豪華な料理はない。




その日に採れたものだけを皿に盛る。


しかし、不思議なことに、


人々は料理だけを食べに来るのではなかった。


今日あった出来事を話し、


亡くなった人を偲び、


笑い、


泣き、


また明日を迎えるために、その店へ集まっていた。


「やがて時代が変わりました。」


マリアは続けた。


「町も変わりました。」


「店を続けることが難しくなり、


私たち家族のLa Stregaは静かに扉を閉じたのです。」



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しかし、その名前だけは忘れたくなかった。



その頃、まだ若かったエレナの父は、


ローマへ働きに出ていた。



最初の仕事は市場と 今の前身のレストランの


床の掃除だった。


毎朝まだ暗いうちから魚を受け取り、野菜を抱え、店まで運ぶ。


営業が終われば、一人残って床を磨いた。


誰よりも早く来て、


誰よりも遅く帰る。


それが毎日だった。



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当時のレストランオーナーは、その姿を毎日見ていた。



ある晩、閉店後の静かな店で言った。


「床をきれいに磨ける人は、人の心も大切にできる。」


「この店を、一緒に守ってくれませんか。」


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その日から、エレナの父は給仕を任される。


料理を運び、


客の話を聞き、


困っている人には、さりげなく椅子を引く。


そんな小さな積み重ねが、店の空気をつくっていった。


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年月は流れ、


やがて彼はその店を引き継ぎ、




名前をLa Stregaとし、レストランの支配人となる。




それは、料理の腕ではなく、


人を思いやる心が選ばれた結果だった。


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(昔むかし、エレナの父の若かった時のある夜のこと)


ある夜、エレナの父は



当時の支配人に、一枚の古い写真を見せた。



港の小さな食堂。



看板には、かすかにLa Stregaの文字。


「私の夢です。」


「いつか、この店の心をローマで受け継ぎたい。」


エレナの父は写真を見つめ、静かに答えた。


「名前を残すのではありません。」


「人が、また帰って来たくなる場所を残しましょう。」


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マリアは暖炉の上の古い写真に目を向ける。


「だから今のローマのLa Stregaには、


トロペアの記憶が息づいているのです。」


「料理だけではありません。」



「人の話を最後まで聞くこと。」



「名もなき勇気を大切にすること。」



「そして、帰る場所を求める人を、静かに迎えること。」


「この人が一番大切にしていたのは、


料理でも肩書きでもありませんでした。」


暖炉の火が小さく揺れる。


「店を訪れる人の話を、最後まで聞くことでした。」


「嬉しかった日も。」


「悲しかった日も。」


「誰にも言えなかった秘密も。」


「食事が終わるころには、不思議と皆、少しだけ笑顔になって帰っていく。」


「だから、この店は料理だけの店ではないのです。」





エレナの父の


その笑顔は、今の支配人とまったく変わっていなかった。


彼は写真から目を離すことができない。




アレッシオは暖炉の上の写真を見つめた。


ローマのLa Stregaと、遠く離れたトロペアの小さな食堂。


二つの店は、建物は違っても、受け継がれてきた思いは一つだった。



そのとき彼は、ポケットの中の白い陶器のレモンにそっと触れた。



それは、料理でも事件でもない。


人から人へ受け継がれてきた「心の鍵」が、


今も旅を続けている証なのだと、少しだけ理解し始めていた。 




この家だけが、トロペアのLa Strega 


と深くつながっていた。


そして、この家に伝わる「名もなき勇気」は


地下のワインセラーのボトルに。


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暖炉の薪が、小さく音を立てた。


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「ここではね、家族だけではありません。」


「洗礼親も家族でした。」


「困った時には真っ先に相談する人。」


「子どもの成長を祈り、人生を見守る人。」


「その絆は、とても温かいものでした。」


そして少し間を置いて、


「だからこそ、この土地では『家族』という言葉の重みが、


とても大きかったのです。」


アレッシオは「人と人との絆」


「名もなき勇気」を理解しつつあった、、、




con amore e rispetto


つづく



解説

 マリアは過去を知る者、エレナは今を歩く者、アレッシオは未来を書く者。

世代が続く話はまだつづきます。次は、マリアの祖母の手紙の話です。




著作権ここにあり、転載不可



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