top of page

La Strega真実は叫ばない④ー招かれた者だけが座る席ー

x Happy
7月20日
読了時間: 4分

更新日:7月27日



ローマに戻ったアレッシオのもとに、一通の手紙があった。


そこには La Stregaからの 招待状 だった。







彼は、虹が出る日を指折り数えた。


フィウミチーノ空港の付近の情報を



毎日チェックしていた。


そしてその日がやっときた、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雨あがり、高速道路から虹がみえた。




彼はその夜、仕事の予定をすべてキャンセルし、


La Strega(ローマ)の扉を開いた。



店内には、キャンドルの柔らかな灯り。


グラスの中で赤ワインが静かに揺れている。


ピアノの音だけが、店の空気をゆっくりと流していた。



支配人は何も聞かなかった。



ただ一枚の 招待状 を見て、静かに小さくうなずく。


「こちらへ。」


案内されたのは、店の一番奥。


普段はカーテンで隠されている、小さな個室だった。



部屋には四人が座っていた。




白髪の歴史学者。


港町で生まれた元船長。


引退した裁判所の書記官。


そして、一人の老婦人。


誰も肩書きを名乗らない。


テーブルの中央には、一本のキャンドルだけが灯っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初の料理が運ばれる。




🎶ホタテのカルパッチョ。


オレンジとフェンネルが添えられ、皿には小さなレモンの花が飾られている。


誰もすぐには食べない。


老婦人が静かに言った。


「この店には、不思議な決まりがあります。」




「料理が冷める前に、一つだけ「本当」の話をすること。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初に話し始めたのは元船長だった。





「私が若い頃、港では時々、不思議な船が夜明け前に入ってきた。」


「荷物を降ろすわけでもない。」


「誰も近づかない。」


「そして朝になると、何もなかったように姿を消していた。」




アレッシオは尋ねようとした。




しかし歴史学者が、そっと首を振る。


「質問は最後に。」


その一言で部屋は静まり返った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


二皿目。



🎶サフラン香る魚介のリゾット。


黄金色の湯気が立ち上る。


今度は書記官が口を開く。


「裁判所には、提出されなかった証言というものがある。」


「書かれなかった調書。」


「届かなかった手紙。」


「それらは記録には残らない。」



彼はワインを一口飲み、窓の外を見た。



「だが、不思議なことに……。」


「町の人々は皆、その存在を知っていた。」


その時だった。


個室の扉が、静かに二度だけ叩かれた。


コン……


コン……


支配人は扉を開けない。


ただキャンドルの炎を指先で隠した。


数秒後、足音は遠ざかっていく。


誰も驚かない。


まるで昔から決まっていた儀式のようだった。


老婦人が微笑む。


「安心してください。」


「今夜の客ではありません。」


その言葉の意味を、アレッシオだけが理解できなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



🎶デザートのBonetが運ばれる頃、


歴史学者はポケットから一枚の古い写真を取り出した。




モノクロ写真には、レストランの前に並ぶ五人の男女が写っている。


写真の裏には、たった一文。


「話さなかった者ではない。


語る時を待った者たち。」


アレッシオが顔を上げると、



四人は静かに席を立っていた。




代金は支払われている。


グラスにはまだワインが半分残っている。


キャンドルだけが、揺れていた。




支配人は写真を封筒に戻しながら言った。



「この店には、料理の予約はできます。」


-------------------------------



「ですが、この部屋だけは違います。」




『「ここへ来る日は、


自分で決めることはできないのです。」』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


『こちらへ来店しないという選択肢も


自由にきめることができます。



人生という時間は有限です、もし指定の時間に


いらっしゃれない場合、それなりの理由がなければ


次にご招待することは


自粛することにさせていただきます、


ここで一緒になった人たちは


一期一会、お名刺交換はありません』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


店を出ると、ローマの石畳は昼間の熱を失い、


夜風だけが吹いていた。


アレッシオはポケットの中の写真に触れた。


その紙は冷たかった。


しかし、写真の裏に書かれた一文だけは、


不思議と温もりを帯びているように感じられた。


彼はまだ知らない。




La Stregaの地下には、


誰にも公開されていない小さなワインセラーがあり、


その最も古い樽の奥に、


この物語の始まりを知る


最後の手紙(羊皮)が眠っていることを。 



Con amore e rispetto

愛と敬意をこめて


つづく

bottom of page