top of page

La strega真実は叫ばない⑧ー名もなき勇気・レモンの価値

x Happy
7月20日
読了時間: 5分


マリアは暖炉の火に薪を一本くべた。


炎が少しだけ大きくなる。



ーレモンの香りが守っていたものーー


暖炉の薪が、ぱちり、と静かな音を立てた。


八十五歳のマリアは、火かき棒で薪を少し奥へ寄せる。


炎はゆっくりと大きくなり、部屋を琥珀色に照らした。


アレッシオは暖炉の前の椅子に座り、


古い革張りの日記を膝に置いたまま、静かに尋ねた。


「マリアさん……。」



「壁のレモンの絵、美しいですね。


しかし、、どうして、この家にはレモンの絵が


壁にたくさんあるのですか。」



マリアは少し微笑んだ。



「それはね。」


「レモンは、この土地の誇りだったからですよ。」


「今では、美しい景色や観光地として知られていますが……。」


「昔のシチリアでは、


『レモンは金貨のような価値』


を持っていました。」


アレッシオは驚いた。


「金貨ですか。」


「ええ。」


「十九世紀、長い船旅では、新鮮な食べ物が手に入りませんでした。」


「船乗りたちは、病気になることが多かったのです。」


「だから、レモンはとても大切な積み荷でした。」


マリアは窓辺の白いレモンの花を見つめる。


「レモンは遠い国まで運ばれ、人々の命を支えました。」


「価値あるものには、人が集まります。」


「畑を守る人。」


「収穫を運ぶ人。」


「船へ積み込む人。」


「売買を仲立ちする人。」


「多くの人がレモンによって暮らしていました。」


暖炉の火が揺れる。


「けれど……。」


その声は少しだけ低くなった。


「価値あるものには、


それを『自分のものにしたい』


と考える人も現れます。」


部屋はしばらく静かになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


マリアはそれ以上、誰の名も口にしない。




ただ薪が燃える音だけが聞こえていた。



「町の人々の多くは、ただ畑を守りたかっただけなのです。」



「家族を養い。」



「子どもを学校へ通わせ。」



「明日のパンを買いたかった。」




「それだけでした。」


アレッシオは黙って耳を傾ける。


「でも時代は、人々に難しい選択を迫ることもありました。」


「沈黙を選ぶ人もいました。」



「町を離れる人もいました。」




「最後まで畑を守り続けた人もいました。」



マリアは暖炉の炎を見つめながら、小さく笑った。


「それでもね。」


「レモンの木は、人を憎みません。」


「春になれば花を咲かせ。」


「夏になれば実を結び。」


「毎年、同じように香りを運んできます。」


「だから私は、レモンを見るたびに思うのです。」



「人の歴史には悲しいこともあります。」



「でも自然は、もう一度やり直す勇気を教えてくれる。」



アレッシオは、ポケットから白い陶器のレモンを取り出した。



手のひらの中で、静かな光を返している。



その底には、小さく刻まれた言葉。



「静けさは、恐れだけでは生まれない。」




マリアはその文字を見て、ゆっくりとうなずいた。


「その言葉を残した人は、レモン畑だけではなく、


人の心も見ていたのでしょう。」



「恐れから生まれる沈黙もある。」


「けれど、思いやりや信頼、


そして平和を願う心から生まれる静けさもあるのです。」


暖炉の火は、静かに燃え続けていた。


その炎は、まるで過去から未来へ受け継がれる、小さな灯火のようだった。
















アレッシオは


意味を考えていた。



「静けさは、恐れだけでは生まれない。」

 


「名もなき勇気」





♪人は危険や圧力を感じると、口を閉ざしそれは恐怖から生まれる静けさです。


街の人々が何も語らないのは、何かを知っていても話せないからかもしれない。

これはー恐れて黙る静けさー




♪反対に、本当に信頼できる相手とは、多くを語らなくても分かり合え

沈黙が苦しくない。


La Stregaで、選ばれた人々が静かに食事をする場面は、この静けさ。

ー 信頼から生まれる静けさー




♪大切な人を失った人は、長年も泣き叫び続けるわけではなく

静かにその人を思い出す。

その静けさには悲しみだけでなく、

【愛】もあります。ー 悲しみを受け入れた静けさー




♪本当に勇気のある人は、大声で自分を誇りません。


毎日働き、家族を守り、町を守り、普通の生活を続けます。


その姿は静かだけど、とても強い。ー 勇気から生まれる静けさー


旅の中で集める「名もなき勇気」は、この静けさ。





♪夜明け前の海は静かです。


嵐のあとも、海は静かになります。


その静けさは終わりではなく、


「これから始まる」


という静けさでもあります。ー 希望から生まれる静けさー




解説


この物語では…


アレッシオは最初、


「街が静かなのは、みんな恐れているからだ。」


と思っています。


しかし旅を続けるうちに気づきます。


市場で笑う女性たち。


港で笑う漁師たち。


教会で祈る老人。


子どもたちが広場を走り回る午後。


それらは恐怖では説明できません。


人々は、苦しい時代を知っているからこそ、


穏やかな暮らしを守ろうとしている。




「静けさは、恐れだけでは生まれない。」


それは、


勇気、信頼、祈り、思いやり、


そして平和を願う人々の積み重ねによっても生まれること

を。




アレッシオは


有名な人ではない ほんとに ごく普通の人の 


「小さな勇気一つ一つ」が



町を良くしてきた 


ということに真に気が付きはじめている、、、、



つづく



ーーー解説ーーーーーー

レモンが正式に通貨だった時代はありませんでしたが、

貨幣のように価値があるもののように扱われていました。


船乗りの壊血病の予防、

レモンが栽培される土地はその土地の価値を高めたのでした。


シチリア産のレモンはヨーロッパ各地へ輸出され

黄金の果実とさえいわれていました。


19世紀のシチリアでは

レモン栽培で得られる大きな利益をめぐって

反社会勢力が保護料などを

要求するようになり、

シチリアマフィア勢力拡大の

一要因であったという

記録もあります。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

著作権ここにあり。転載不可

bottom of page