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La Strega真実は叫ばない⑥、ワインセラーの秘密・もう一つのレモン・掟

x Happy
7月20日
読了時間: 5分

La Strega の食事を終えたアレッシオは、


エスプレッソの最後の一口を静かに飲み干した。


支配人は、テーブルの上に置かれた白い陶器のレモンを見つめると、


小さく微笑んだ。


支配人は


アレッシオ だけに 声をかけた。


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「今夜は、少しだけ特別な場所をご案内しましょう。」


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そう言って、厨房の奥へ歩き始める。


壁際の古い棚を静かに押すと、石壁が音もなく開いた。


その向こうには、地下へ続く細い石段が現れる。


階段を下りるたび、空気が少しずつ冷たくなる。


やがて、柔らかなランタンの灯りが見えてきた。



『地下ふかくにこんな場所があるなんて、、、』


そこは、古いワインセラーだった。






天井はレンガ造りのアーチ。


壁には何百本ものワインが静かに眠っている。




しかしアレッシオは、あることに気付いた。


「……ワインが、年代順ではありません。」



支配人は微笑んだ。


♬「よく気付きましたね。」



「この地下室は、ワインを保管するためだけの場所ではありません。」


一本の古いボトルを手に取る。


ラベルには何も書かれていない。


「この一本には、一人の人生が入っています。」


「えっ……?」


「もちろん、本当に人生が入っているわけではありません。」


「この棚の一本一本には、


その年にLa Stregaを訪れた人の物語が記録されているのです。」




支配人は一本の瓶を棚から取り出した。


瓶の底には、小さな鍵穴の紋章が刻まれていた。



瓶の中にはワインではなく、


小さく巻かれた『羊皮紙』が入っている。


アレッシオは息をのむ。


「これは……。」


「その人が残した言葉です。」


「時計職人。」


「教師。」


「漁師。」


「花屋。」


「修道女。」


「市場で野菜を売っていた女性。」


「職業は書いてありますが、


名前はほとんど書かれていません。」


「残っているのは、その人が誰かのために見せた、


『小さな勇気』だけです。」


部屋の一番奥には、大きなオーク材の樽が一つ置かれていた。


支配人は樽にそっと手を置く。


「この樽だけは、一度もワインを入れたことがありません。」


「では、何のために?」


「約束のためです。」


アレッシオは首をかしげる。


「La Stregaには、代々受け継がれてきた「約束」があります。」


支配人は静かに言った。


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🎵「人の秘密は売らない。」


🎵「人の弱さを笑わない。」


🎵「人の勇気だけを、未来へ残す。」


その三つの言葉は、この地下室の掟だった。


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支配人は最後に、一番古い棚を指差した。


そこにはワインはなく変わりに


白い陶器のレモンが置かれている。


「この陶器のレモンはなんですか。」


「ここから旅立たない陶器のレモンです」


「ここへ来た人の中で、本当に勇気を受け継ぐ者が現れたときだけ、


このレモンは持ち主を変えます。」


アレッシオは、自分のポケットに入っている自分の陶器のレモンへ、


無意識に手を添えた。


支配人は、その様子を見て静かに微笑む。


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アレッシオが持つ陶器のレモンは「旅人に託されたもの」。


地下室の棚にある陶器のレモンは「最初の一つ」。


つまり、親と子のような関係です。





並べてみると、大きさも色もよく似ている。


「同じものですか。」


支配人は、ゆっくり首を横に振った。


「いいえ。」


「あなたのものは旅をするレモン。」


「こちらは、旅立たないレモンです。」


アレッシオは意味が分からなかった。


「どういうことですか。」





支配人は古い棚を優しく撫でる。


「これは最初の一つです。」


「七十年以上前、トロペアの小さなLa Stregaが閉じる日、



一人の陶芸職人が焼きました。」


「レモンは、この土地の希望でした。」


「だから、その希望を失わないようにと。」


「土を焼き、白い陶器のレモンを作ったのです。」



「それ以来、このレモンは一度も地下室を出たことがありません。」


「La Stregaの原点だからです。」


アレッシオは棚のレモンを見つめる。


年月を経ても、美しい艶を失っていない。


支配人は続けた。


「そして、このレモンを見本にして、いくつかの陶器のレモンが作られました。」


「しかし、それは売り物ではありません。」


「誰かが勇気を必要とするときだけ、その人へ託されます。」


アレッシオは手の中のレモンを見る。


「だから……私のところへ。」


「そうです。」


「あなたが持つレモンは、この地下室のレモンから生まれました。」


「では、旅が終わったら返すのですか。」


支配人は静かに笑った。


「いいえ。」


「返しません。」


「あなたは、いつか別の誰かへ渡すのです。」


「それが、このレモンの役目です。」


地下室は静まり返っていた。


ランタンの炎だけが揺れる。


支配人は最後に、こんな話をした。


「知っていますか。」


「レモンの木は、一粒の種から育ちます。」


「一本の木が実を結び、その実の種が、また新しい木になります。」


「陶器のレモンも同じです。」


「最初の一つは、この場所に残る。」


「しかし、その想いは人から人へ受け継がれていく。」


アレッシオは、白い陶器のレモンを胸の前でそっと握った。


初めて、その重さが陶器の重さではないことに気付く。


それは、何十年もの歳月を越えて受け継がれてきた人々の願い。




そして、『名もなき勇気の重さ』だった。


支配人は静かに言う。


「レモンは果実ではありません。」


「これは、人が人を信じ続けた証なのです。」


アレッシオはもう一度、


♪棚の「最初のレモン」と、


♪自分の「旅をするレモン」を見比べた。


二つは似ていた。


♪エレナの持つレモンとも似ている、、




しかし、一つは過去を守り、一つは未来へ歩いていく。


その違いを理解したとき、


アレッシオの旅は、新しい意味を持ち始めていた。 



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「地下ワインセラーの秘密とは、


隠された財宝ではありません。」


「人の善意は、誰かが守らなければ消えてしまう。


だから、この場所があるのです。」


ランタンの灯が、静かに揺れた。


石壁の奥には、まだ誰にも開かれていない古い木箱が一つだけ残されていた。






蓋には、鍵穴の紋章と小さな文字が刻まれている。


「Veritas non clamat(真実は叫ばない)」


アレッシオは、その木箱の前で静かに立ち止まる。


その中に何が眠っているのか。


それは、まだ誰にも語られていなかった。 



con amore e rispetto

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つづく



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