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NISEKO 羊蹄山 やわらかなとき

  • x Happy
  • 5月24日
  • 読了時間: 3分

更新日:5月25日

冬が終わりかけた北海道。


倶知安の町には、


まだ少しだけ雪が残っていました。


小さな居酒屋の窓から見える羊蹄山は、


月明かりの中で青白く光っています。


カウンターには、若い不動産会社の


男性 慎之介


が座っていました。


今日は珍しく、肩の力が抜けています。


「契約が、無事に終わったんです」


店主は嬉しそうに笑いました。


「それは良かった」


慎之介の前には、


二世古 の純米吟醸酒。


透明な酒を口に含むと、辛口なのにどこか柔らかい。


男性は少し笑います。


「最近、地面師事件の話をよく聞くでしょう。


だから今回の土地取引も、


社内みんな とても


神経質になっていて、、、、」


店主は静かに頷きました。


「確認は大事ですからね」


「ええ。今回は、


『ちゃんと確認すること』が、


人を救ったんです」


慎之介は杯を置き、話し始めました。


土地の所有者は高齢の女性でした。


書留郵便で、


“私は『焦って』売りたくありません”


“納得するまで説明してください”


と送ってきたそうです。


最初は社内で、


「契約を嫌がっているのでは」


「話を止めたいのでは」


という声もあったと言います。


けれど慎之介、は違和感を覚えました。


「文章が、とても丁寧だったんです。


怒っているというより、


“ちゃんと理解したい”という感じで」


だから慎之介は、急がなかった。


何度も家を訪ね、


図面を広げ、相続のこと、


税金のこと、将来の生活のことを、



丁寧に


一つずつ説明したのです。


そのたびに女性は、


お茶、小さなお茶菓子を


出してくれました。


最初はこわばり硬かった表情も、


少しずつ柔らかくなっていった。


店主は


徳利を傾けます。


「それで契約されたんですね」


「はい。最後にその方が言ったんです。


“急かさなかったから、


『安心』できました”って」


店の奥では、


小さく、お客さんの雑談と、笑い声が


聞こえています。


男性は二世古を飲みました。


辛口なのに、飲み終えると



不思議と温かい。


まるで、


“急がず、誠実に”


そう語っているようでした。


「地面師の事件って、


人の焦りや欲が絡む話が多いでしょう。


でも今日、自分は逆を見た気がするんです」


「逆?」


「ちゃんと 待つことで、


信頼ができることもあるんだって」


店主は静かに笑いました。


「それが本当の商売かもしれませんね」


相手の為、相手も理解するような納得するような仕事。


相手が理解できて、正しい判断と確認


がお互いできる仕事。


外では雪が静かに溶けています。


派手ではない夜。


でもその居酒屋には、


誰かを騙す空気ではなく、


人が人を信じ直すような、


やわらかな時間 


地味な時間


が静かに流れていました。


二世古の瓶は、


木の灯りの中で静かに光っていました。 


背後で羊蹄の魂が


手を広げて


大きく見守っていました。


解説


大人気の二世古酒造のお話を

おだやかな羊蹄の山を想像しながら

書いてみました。お楽しみください


つづく

 
 
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