Novel bar 二人の女性
- x Happy
- 4月29日
- 読了時間: 6分
四月の夜は、まだ少しだけ冷たくて、
けれどどこか甘い予感を運んでくる風が吹いていました。
路地裏の奥、静かに灯る一軒のバー。
看板には小さくこう書かれています。
―― Novel Bar
「ここでいいのかな?」

「うん、ちょっと不思議な感じだけど…入ってみよ」
25歳の二人の女性は、そっと扉を開けました。
中は、しんとした静けさと、やわらかなランプの光。
棚にはお酒の代わりに、本がずらりと並んでいます。
カウンターの向こうには、
エプロンをつけた少女――
「いらっしゃいませ」
微笑んだのは、Novel barマスター、アリスでした。
「カクテルをお願いできますか?」
「私、あまりお酒強くなくて…甘めがいいです」
「私は普通くらいで、甘さ控えめがいいかな」
アリスはくすっと笑います。
「このお店ではね、カクテルは“物語”でできているの」
アリスは本棚から二冊の本を取り出しました。
それぞれにアリスは本を渡す。
そこににはカクテルの写真がならんでいる。
いまから
あなたたちをイメージして作るわ。
アリス店長は答えました。
淡いピンク色のふんわり ニットの服装の女性
深いネイビーのふんわり シャツの服装の女性
グラスに氷を入れながら、静かに語り始めます。
はじまりの一歩(低アルコール・甘め)
「春の最初の勇気を、そっと後押しする味よ」
アリスの手元で、やさしいピンクが重なっていきます。
レシピ(1杯分)
ピーチリキュール … 20ml
いちごシロップ … 15ml
レモンジュース … 5ml
ミルク … 30ml
ソーダ … 適量
作り方
グラスに氷を入れる
ピーチリキュール、いちごシロップ、レモンジュースを注ぐ
ミルクを加えてやさしく混ぜる
最後にソーダを注ぎ、軽くステア
「甘くて、少しだけ酸っぱくて…」
「恋の“はじまり”に似てるでしょう?」
さよならのあとで(中アルコール・甘さ控えめ)
「終わったあとに残る、静かな余韻の味」
琥珀色の液体が、グラスの中でゆっくり揺れます。
レシピ(1杯分)
ウイスキー … 30ml
グレープフルーツジュース … 40ml
トニックウォーター … 適量
オレンジピール … 少々
作り方
グラスに氷を入れる
ウイスキーとグレープフルーツジュースを注ぐ
軽く混ぜる
トニックウォーターを加える
オレンジピールをひねって香りづけ
「苦味の中に、少しだけ優しさがあるの」
二人はそれぞれのグラスを手に取りました。
「最近さ、どうなの?」
ピンクの彼女が笑いながら聞きます。
「うーん…気になる人はいるんだけど」
「でも距離が縮まらないんだよね」
グラスの中で、春がゆらりと揺れます。
「私なんてさ」
ネイビーの彼女が静かに言いました。
「長く付き合ってた人と、最近終わっちゃって」
「え…そうだったの?」
「うん。でもね」
一口飲んで、少しだけ目を細めます。
「ちゃんと終わったから、次に進める気がする」
アリスはグラスを磨きながら、やさしく言いました。
「恋ってね、季節みたいなものなの」
「咲くときもあれば、散るときもある」
「でもね、どちらも“次”につながっているのよ」
「このカクテル、名前あるんですか?」
「あなたたちが決めるのよ」
二人は顔を見合わせて、少し照れながら笑います。
「じゃあ…これは、“はじまりの一歩”」
「こっちは…“さよならのあとで”」
「素敵な名前ね」
アリスは静かに微笑みました。
気づけば、グラスは空。
でも不思議と、心は満たされていました。
店を出ると、春の夜風。
「なんかさ」
「うん?」
「ちょっとだけ、前向けそう」
「私も」
振り返ると、そこにバーはもうありません。
ただ、静かな路地。
けれどきっとまた――
迷い込むのでしょう。
レシピは覚えているはずなのに、
同じ味にはならない。
なぜなら最後に必要なのは――
“その日の気持ち”という、見えない材料だから。
―― Novel Bar
それは、物語で酔う、不思議なバー。
四月の夜。
あの不思議な Novel Bar に、またやわらかな灯りがともっています。
扉が開き、あの二人の女性が、少しだけ前より軽やかな表情で入ってきました。
「こんばんは、アリス」
「いらっしゃい。――続きの物語、飲みに来たのね?」
カウンターに腰掛けた二人は、少し照れながら言います。
「この前のカクテル、すごく好きだったの」
「ねえ…あれ、どんな味でできてたの?」
アリスはグラスを取り出しながら、ふわりと微笑みました。
「物語にもね、“レシピ”があるのよ」
はじまりの一歩(低アルコール・甘め)
「あなたのカクテルは、春の最初の勇気の味」
アリスはやさしく説明します。
ベース: ピーチリキュール(やさしい甘さ)
フルーツ: いちご+ほんの少しのレモン(きゅんとする酸味)
割り材: ミルク+ソーダ(ふんわり軽く)
レシピ:
ピーチリキュール … 20ml
いちごシロップ … 15ml
レモンジュース … 5ml
ミルク … 30ml
ソーダ … 適量
軽く混ぜると、春の雲みたいなやさしいピンク。
「アルコールは控えめ。でもね」
「心はちゃんと、ときめくくらいに酔えるの」
彼女はグラスを見つめながら、小さく笑いました。
「…あの人に、もう一歩だけ近づいてみようかな」
さよならのあとで(中アルコール・甘さ控えめ)
アリスはもう一つのグラスに、静かに液体を注ぎます。
「こちらは、終わりのあとに残る、あたたかさ」
ベース: ウイスキー(深みと余韻)
フルーツ: グレープフルーツ(ほろ苦さ)+オレンジピール
割り材: トニックウォーター(軽やかな苦味)
レシピ:
ウイスキー … 30ml
グレープフルーツジュース … 40ml
トニックウォーター … 適量
オレンジピール … 少々(香りづけ)
氷を入れて、静かにステア。
「甘さは控えめ。でもね」
「時間が経つほど、やさしくなるの」
彼女はグラスを持ち、ゆっくりと言いました。
「終わった恋ってさ…苦いだけじゃないね」
「ええ」
アリスは頷きます。
「苦味のあるものほど、あとから深くなるのよ」
二人は静かにグラスを合わせました。
カラン、と小さな音。
それはまるで、
“過去”と“これから”が触れ合う音のようでした。
「ねえアリス」
「なあに?」
「このバーって、本当にお酒出してるの?」
アリスは、少しだけいたずらっぽく笑います。
「さあ、どうかしら」
「でもね」
「どんなレシピでも、最後に必要なのは一つだけ」
「“あなた自身の気持ち”よ」
グラスの中の色が、ふわりと揺れました。
それはきっと、
ただのカクテルではなく――
少しだけ前に進むための、
物語そのものだったのです。
似たようなレシピでも
味わいは違うのです。


