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『①白龍昇と執事――最初の白桃』

x Happy
8月13日
読了時間: 6分

その屋敷には、少し変わった執事がいた。



毎朝きっちり同じ時刻にカーテンを開け、銀食器を磨き、


庭師が忘れた道具を片づけ、夜になれば最後の灯りを消す。



黒い燕尾服。白いシャツ。白い手袋。



仕事は几帳面だった。



けれど、一日の仕事が終わると必ず屋敷の屋上へ上がった。



星を見るためだった。



天文学者ではない。



星座にも、それほど詳しくない。



ただ、


♪「自分が生きている世界の外側には、何があるのだろう」



と考えるのが好きだった。










百年生きても、もっと長く生きても、


永遠にここにいることはできない。



だったら――



さよならする前に、一度くらい宇宙を見たいものだ。



自分が生きてきた地球が、宇宙の中でどんな姿をしているのか。



太陽は本当はどれほど大きいのか。



土星の輪は、本当にあんなに美しいのか。



そして地球の向こうには、どんな世界が続いているのか。



知らないまま、さよならするなんて、少しもったいない。



執事は毎日毎日夜空をみて同じことを思った。



昼休みでも時間をみつけて


執事は庭に椅子を出して、空を眺めていた。



特別な昼でもなかった。


夕方は倍率をあげると夜とおなじくらい、はっきり見える。(注意)太陽を絶対避けて。
夕方は倍率をあげると夜とおなじくらい、はっきり見える。(注意)太陽を絶対避けて。



いつもの月。いつもの風。




そのときだった。



雲の向こうが、金色に光った。雲ゆきが怪しくなってきた。



最初は稲妻だと思った。



しかし違う。



光はゆっくり動いている。



そして――



長い。



白い。



巨大な何かが、雲の間から姿を現した。



真珠のような鱗。



風になびく銀白色のたてがみ。



長い角には、ところどころ金色の光が走っている。



執事の目に


一頭の白い龍のようなものがかすかにみえた。


その身体には、金箔を散らしたような光が瞬いていた。




雲の奥で何かが光った。



雷ではない。



白い光だった。



雲が大きく渦を巻く。



そして、その中心から巨大なものが落ちてきた。



「……龍?」



白い龍だった。



美しかった。



しかし、様子がおかしい。



いつか宇宙を駆け巡ることになる白龍は、


この夜、屋敷の庭へ――



ドサッ。



かなり格好悪く落ちた。



庭の木が揺れた。



執事は急いで階段を駆け下りた。



庭へ出る。



そこには巨大な白龍が横たわっていた。



真珠のような鱗。銀白色の長いたてがみ。


金色を帯びた角。



月明かりを受けた姿は神そのものに見える。



ところが龍は目を閉じたまま言った。



「……腹が減った」



執事は黙った。



もう一度聞いた。



執事「何とおっしゃいました?」



龍「腹が減った」



神秘性が一瞬で消えた。



執事「それで空から落ちてこられたのですか?」



白龍は片目を開けた。



♬「三日ほど、月の光しか食べていない」


月の光をたべる龍
月の光をたべる龍




執事「月の光を?」



龍「うまいぞ」



執事「しかし栄養が偏りそうですね」



龍は初めて執事をじっと見た。



(^^♪龍に栄養バランスを指摘した人間は、おそらく初めてだった。



「お前、私が怖くないのか」



「怖いですよ」



執事は答えた。



「ですが、空腹のお客様を庭に放置するほうが、


執事として問題です」



白龍は少し考えた。



「……変な人間だな」



執事「よく言われます」



執事は屋敷の厨房へ行った。



その日は、料理人は


午後から休日をとっていてのでもう帰っている。



冷蔵庫を開ける。



肉。チーズ。パン。野菜。



「龍は何を食べるのでしょう」



考えていると、果物庫から甘い香りがした。



その日の正午に届いたばかりの白桃だった。





執事は一つ手に取った。



柔らかい産毛。



淡い乳白色に、ほんのり桃色。



香りもいい。



「これなら」



銀の盆に白桃を三つ載せて庭へ戻った。


洋間の近くの庭にて
洋間の近くの庭にて



「お待たせいたしました」



白龍は鼻先を近づけた。



クンクン。



「これは何だ」



「白桃です」



龍「食べたことがない」



「では、どうぞ」



白龍は一個を爪でつまんだ。



巨大な龍の爪の先に、小さな白桃。



なんとも奇妙な光景だった。



そして――



パクリ。



龍の目が止まった。



執事も黙って見ている。



「……」



「いかがでしょう」



「……もう一個」



執事は微笑んだ。



「お気に召しましたか」



龍「普通だ」



🎵二個目。



パクリ。



「もう一個」



「普通なのでは?」



龍「確認している」



🎵三個目。



パクリ。



白龍の尻尾が、庭の石灯籠に当たりそうなほど 嬉しそうに動いた。



執事は確信した。



かなり気に入っている。



執事「残念ながら、本日は以上です」



白龍が固まった。



「ないのか」



執事「ございません」



「一個も?」



「ございません」



「明日は?」



執事「仕入れておきましょう」



白龍は満足そうに目を閉じた。(3つでも満足だった。


でも本当は1000個くらいたべたかった)



しばらくして、龍は元気を取り戻した。



「礼をしよう」



「必要ありません」



「人間は〇●が好きなのだろう」



「人によります」



「◎〇?」



「結構です」



「では何が欲しい」



執事は少し考えた。



そして空を指差した。


執事「あそこへ行けますか」



白龍が空を見る。



「月?」



執事「もっと向こうです」



「……宇宙?」



「はい」



白龍は執事を見た。



執事はいつもの黒い燕尾服のままだった。



「お前、宇宙へ行って何をする」



「地球を見てみたいのです」



「地球?」



「私が毎日働いて、食べて、眠って、いつかさよならする場所です」



執事は月を見上げた。



🎵「人はいつか、この地球からさよならしなければなりません」



白龍は黙って聞いていた。



「だから、さよならする前に――」



執事は微笑んだ。


「一度くらい、外から地球を見ておこうじゃないかと思いまして」


白龍の金色の瞳が、わずかに細くなった。


「面白い人間だな」


白龍は身体を低くした。


「乗れ」



執事「・・え、今から?」



龍「今から」



執事は自分の服を見る。



 ・・・・燕尾服。白手袋。革靴。・・・・



執事「宇宙へ行く服装ではありませんが」



龍「宇宙にドレスコードなどない」




執事「宇宙って……酸素がないでしょう、


お客様だいじょうぶでしょうか・・・

 

呼吸はちゃんとできますでしょうか?


私は、窒息しませんでしょうか?」




龍「私の背中に乗っている間は、呼吸できる」




執事「寒さはいかがでしょうか?」



龍「大丈夫、背中はふわふわで暖かだ。」(鱗だから正直ふわふわではないけど)



執事「落下は心配ありませんでしょうか?」



龍「私が落とさない。宇宙にいくぞ!」





あまりにも簡単に言うので、執事は困った。


白龍昇は、ちらりとこちらを見た。


龍「大丈夫だよ」





執事「あ。それから 


放射線もだいじょうでしょうか?」



「大丈夫」



「本当でしょうか?」



「質問が多いなあ」 白龍昇は少し笑った。



「これは人間の宇宙船ではない。龍の旅だ」



執事「なるほど。


【龍に出会っておいて、


そこから先だけ科学的に考える必要もない。】」



執事は白龍昇の背中に乗った。



鱗は硬いと思っていたが、意外にも🎵温かかった。🎵



心配が多い執事は最後に安全を確認した。



龍「安全を全て、約束する」



白龍昇は空を見上げた。



「それでは――」



身体が大きく伸びる。



「地球を見に行こう」

背中は温かい
背中は温かい

つづく


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