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白龍昇、天王星の青い深淵へ②

x Happy
9月15日
読了時間: 5分


白龍昇は、星々の間をゆっくりと飛んでいた。


背中には、いつもの黒い燕尾服に白手袋の執事。


長い旅の先に、淡い青緑色の小さな球が浮かんでいる。


「あれか」


「はい。天王星でございます」


近づくにつれ、その小さな球は巨大になった。


白龍昇は目を細めた。


「美しいな。静かな湖のようだ」


「ですが、湖ではございません。青く見えるのは、大気中のメタンが赤い光を吸収するためです」


「水は?」


「内部には大量に存在すると考えられています。ただし、地球の海とはまったく違います」


白龍昇は少し考えた。


「では、まず地面に降りよう」


執事は即答した。


「地面がございません」


「……何?」


「天王星には、地球のような固い表面がないのでございます」


「お前、それを今言うのか」


「聞かれませんでしたので」


「執事というものは、聞かれなくても重要なことは言うものだ」


二人は天王星の細い環の近くを通り過ぎた。


やがて、青い惑星が視界いっぱいになった。


――上層大気


白龍昇の身体が、薄い大気へ入っていく。


周囲は青白い霞に包まれた。


執事が温度計を見る。


「かなり冷えてまいりました」


「何度だ?」


「天王星では、場所によってはマイナス200度を大きく下回る低温になります」


白龍昇が振り返った。


「お前、その燕尾服で来たのか」


「はい」


「寒くないのか?」


「非常に寒うございます」


「なぜコートを着なかった」


「美しくありませんので」


「凍るよりはいいだろう」


その瞬間だった。


ゴオオオオ――。


猛烈な風が白龍昇の身体を横から押した。


「うおっ!」


白龍昇が大きく身体を傾ける。


執事は白龍昇の角につかまった。


「天王星では、場所によって時速900キロほどに達する風もございます」


「それも先に言え!」


「申し訳ございません」


「お前、今日は情報を出す順番がおかしいぞ」


――メタンの雲


さらに下降すると、周囲は濃い青の雲になった。


上も下も分からない。


太陽は、もう小さな光でしかない。


白龍昇が尋ねた。


「生き物はいるのか?」


「今のところ、生命が発見された証拠はございません」


「この寒さでは難しいか」


「寒さだけではございません。安定した地面もなく、深くなるほど圧力が急激に上昇します」


白龍昇は下を見た。


しかし、どれだけ見ても地面はない。


ただ青い闇が続いている。


「妙な星だな」


「はい。落ちても、地面にぶつからないのでございます」


「では、ずっと落ちる?」


「やがて圧力と温度で、人間も探査機も耐えられなくなります」


白龍昇が黙った。


「……それを『落ちる』より怖いと言うのではないか?」


「おっしゃる通りでございます」


――さらに深く


二人は慎重に下降した。


青かった景色が、次第に暗くなっていく。


執事が計器を見る。


「圧力がかなり高くなっております」


白龍昇のひげが、ぴくりと動いた。


「身体が押される感じがする」


「ここから先は、水、アンモニア、メタンなどを含む高温高圧の流体の領域へ近づいていきます」


「氷の惑星なのに、熱くなるのか?」


「はい。『氷の巨大惑星』という名前ですが、内部が冷たい氷の塊という意味ではございません」


さらに下降する。


寒さが少しずつ和らいでいく。


ところが今度は、身体を包む圧力が増してきた。


白龍昇が言った。


「執事」


「はい」


「そろそろ、お前の顔が少し真剣になってきたな」


「お気づきになりましたか」


執事は計器を見つめた。


そして静かに言った。


「白龍昇様。ここで引き返しましょう」


「中心まで行かないのか?」


「行けば、帰れなくなる可能性がございます」


「なぜだ?」


「これより下では圧力も温度もさらに上昇します。


実際の探査機であれば、もっと手前から耐久限界が問題になります。


天王星の深部へ到達した探査機は、


まだ一機もございません」


白龍昇は下を見た。


青い闇のさらに奥。


その向こうには、数千度に達すると考えられる世界がある。


「中心は?」


「およそ5,000度程度と推定されています」


「太陽ほどではないが、とても行楽地ではないな」


🎼「旅行会社でしたら、星一つでございます」


「一つも付けるのか」(+_+)


「景色は美しいので」


白龍昇は笑った。


そして身体を大きく反転させた。


――帰還


上へ向かうにつれて、世界が再び青くなっていく。


やがて雲を抜けた。


漆黒の宇宙。


その背後には、何事もなかったかのように淡い青緑色の天王星が浮かんでいた。


白龍昇は振り返った。


「外から見ると、あんなに穏やかなのにな」


「中へ入れば、極寒、暴風、巨大な圧力。そしてさらに奥には高温の世界です」


しばらく二人は黙って天王星を眺めた。


白龍昇が言った。


「中心まで行かなかったのは、負けたことになるか?」


執事は首を横に振った。


「いいえ」


「なぜだ?」


🎼「行けるところまで行くことだけが、旅ではございません」


執事は白手袋についた小さな氷の粒を払った。


「帰る場所を失わないところで引き返す。


それも旅をする者の知恵でございます。」


白龍昇はしばらく黙っていた。


そして天王星に背を向けた。


「では帰ろう」


「はい」


「温かいものが食べたい」


「何になさいますか?」


🎼「白桃を三つ」


「天王星まで来ても、それでございますか」


「寒かったから四つにする」


執事は初めて声を出して笑った。


白龍昇は白い尾を大きく翻し、青い天王星をあとにした。


遠ざかっていく惑星は、再び小さな青い宝石になっていった。


そして白龍昇は、最後に一度だけ振り返った。


「美しい星だったな」


「はい。近づいたからこそ、美しさだけではないことも分かりました」


白龍昇はうなずいた。




🎼知らない世界へ進む勇気と、帰るべきところで戻る知恵。


その二つを土産にして、白龍昇と執事は地球への長い帰路へ・・・・・


そのまえに


せっかくだから土星にいきませんか・・・・・・



つづく

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