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アリス 戦闘機にのる

  • x Happy
  • 3月31日
  • 読了時間: 4分

ある晴れた午後、アリスはいつものように白ウサ

ギを追いかけて穴に落ち……たと思った瞬間、イングランドの田舎の工場に頭から突っ込んでいた。


「痛っ! ここはどこ? それにこの匂い……機械油と、ちょっと焦げた紅茶?」


工場内はカオスだった。金属部品が山のように積まれ、図面が蝶の群れのように舞い、どこからか「失敗した~!」という悲鳴が聞こえる。看板には堂々と書いてあった。


Martin-Baker Aircraft Company Ltd.


「世界一安全な脱出を、あなたに(……できれば)」


眼鏡をかけた背の高い紳士が、慌てて駆け寄ってきた。ジェームズ・マーティン氏である。


「君は……迷子? それとも新しいテストダミー?」


「私はアリスよ。ウサギを追いかけてきただけ。ところで、あの大きな変な椅子は何? 座ったら頭が飛んでいきそうね」


マーティン氏は疲れた笑顔で答えた。


「それは射出座席だよ。飛行機がダメになったら、パイロットをロケットみたいに空へぶっ飛ばして、パラシュートで生還させるための命の椅子なんだ……はずなんだが」


そこへ、ウサギ耳のようなヘルメットを被った男が、顔を真っ黒にして走ってきた。バレンタイン・ベーカー氏だ。


「マーティン! また大失敗だ! 今度のダミーは地面に頭から10センチも突き刺さって、『Mad as a Hatter』を通り越して『Dead as a Dodo』だよ!」


アリスは目をキラキラさせながら手を挙げた。


「それなら私が試してみるわ! 不思議の国じゃ、もっと危ないことに毎日遭ってるもの。女王様のクロッケーだって生きて帰ってきたわよ」


二人は顔を見合わせ、「……まあ、死んだら責任は取らないけど」と小声で囁き合い、アリスを座席に座らせた。


座席は完全に不思議の国仕様になっていた。


背もたれに「Drink Me(飲んで)」ボトル


ハンドルに「Eat Me(食べて)」タグ


シートベルトが締まりながら「Off with her head!」と叫ぶ


クッションの中からチェシャ猫の声が「にやぁ~、タイミングを間違えると面白いことになるよ?」


「準備はいいかい、アリス?」


「いつでもどうぞ! 落ちるのが怖いパイロットさんのために、ちゃんと試してあげるわ」


ドカァァァン!!


工場屋根をぶち破り、アリスはロケットのように空高く舞い上がった。スカートがひるがえり、雲を突き抜け、遠くの牛が豆粒に見えるほど。


「わあぁ! これ最高! でも落ちてきたらどうなるの~!?」


すると座席の背もたれから小さな声(チェシャ猫)が。


「パラシュートは開くわよ。ただ、早すぎると風船みたいにふわふわ、遅すぎると『Curiouser and curiouser……地面が近づいてくるわよ!』」


アリスは大笑いしながらハンドルを握り、完璧なタイミングでパラシュートを開いた。花のようにふわりと工場敷地の芝生に着地。完璧だった。


マーティン氏とベーカー氏が涙目で駆け寄る。


「成功だ……! 人間で初めて完璧に生還したぞ!」


「アリス、君は救世主だ! 我々の射出座席はこれで完成に……!」


アリスはスカートを払いながら、ちょっと真面目な顔で言った。


「技術は素晴らしいわ。でもね、ただ飛ばすだけじゃダメ。『落ちても大丈夫』って心を強くするのも大事なの。パイロットさんたちが『もうダメだ……』と思った瞬間に、この椅子が『お前はまだ生きられる!』って背中を押してあげる。それが本当の命の技術よ」


マーティン氏は深くうなずいた。


「その通りだ。1942年にベイカーが飛行機事故で亡くなってから、私は誓ったんだ。『二度とパイロットを死なせない』と。この椅子はそのためにある。君のおかげで、それが形になった」


その日から、開発室の壁には大きな看板が掲げられた。


"Alice Approved"


——不思議の国公認・パイロット救命射出座席——


それ以来、マーティン・ベーカー社の射出座席は実際に何千人ものパイロットの命を救うことになった。


アリスはまたウサギを追いかけてどこかへ消えたが、ジェット機のエンジン音が聞こえるたび、空に向かって小さく手を振るのだという。


「無事に帰ってきてね。紅茶が冷めないうちに……そして、落ちても笑顔で!」


マーティン・ベーカー社の「友の死から生まれた命を守る技術」のお話でした。

 
 
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