イソッタの人を丁寧にみるお話
- x Happy
- 5月17日
- 読了時間: 3分
春の終わり、雨上がりの石畳が
キラキラと光る夕暮れでした。
白いレースのワンピースを着た少女イソッタは、
古い時計塔の横にある小さなティーサロンへ向かっていました。
そこは、帽子屋も、眠そうなヤマネも
チェス盤みたいな服を着た猫も集まる、
不思議の国の小さなお茶会の場所です。
その日のお茶会では、奇妙な話題が飛び交っていました。
「ねえ、あなた……お嬢様ですか?」
ウサギ耳の給仕が、向かいの席の女性にそう言ったのです。
『、、、、、、』
言われた女性は、一瞬だけ困った顔をしました。
その人は、上品な話し方をしていて、背筋がすっと伸びていて、
紅茶のカップを持つ指先まで綺麗でした。
でも、その“お嬢様ですか?”には、 少しだけ試すような、
少しだけ距離を置くような、 そんな空気が混じっていました。
まるで、
「苦労なんて知らないでしょう?」
「現実を知らないでしょう?」
「育ちが違うんでしょう?」
そんな見えない言葉が、ティーカップの湯気の中に溶けていたのです。
イソッタは静かに紅茶を置きました。

すると、向こうの席で帽子屋が大げさに立ち上がります。
「それは変だ!」
帽子屋は叫びました。
「優雅な人を見て“お嬢様”と言うのは悪くない!
でも、“あなたは何も知らないでしょう”という
意味で使った瞬間、
その言葉は小さな『棘』になる!」
眠そうだったヤマネも、今日は珍しく起きています。
「ふわぁ……でもねぇ、人は、自分と違う空気を持つ人を見ると、
つい距離を作りたくなるんだよぉ……」
チェス猫は、にやりと笑いました。
「本当は、“育ちが良さそう”って、褒め言葉のはずなんだけどね」
その時、イソッタがそっと口を開きました。
「本当のお嬢様って、“私は特別です”なんて言わない気がするの」
みんなが静かになります。
「誰かを下に見たり、
“あなたは分からないでしょう”って線を引いたりしない。
むしろ、人を安心させる人なんじゃないかな」
窓の外では、雨粒が街灯に反射して、
金色に光っていました。
イソッタは続けます。
「だから、“お嬢様ですか?”って言葉も、
優しさで使われたら素敵だと思うの」
“上品ですね” “優雅ですね” “丁寧に生きてきた感じがしますね”
そんな気持ちを込めて。
でも、 “世間知らずそう”
“苦労してなさそう” って意味が混ざると、
言われた人の心に、小さな曇りができてしまう。
すると、白いティーポットが突然ぴょこんと跳ねました。
不思議の国では、誰かが本当に大事なことを言うと、
食器たちが反応するのです。
カップたちが、
からん、と優しい音を立てました。
帽子屋は静かに帽子を脱ぎます。
「じゃあ、これからはこうしよう」
「“お嬢様ですか?”ではなく——」
「“あなたの雰囲気、素敵ですね”って」
その瞬間、ティーサロンの窓から、
柔らかな風が吹き込みました。
遠くで時計塔が鳴ります。
その音はまるで、 誰かを決めつけるためではなく、
誰かの美しさを見つけるために、
言葉を使えますように——
そんな願いの鐘のようでした。
イソッタは微笑み、
少し冷めた紅茶を飲みました。
するとチェス猫が最後にこう言いました。
「人はね、“お嬢様”だから素敵なんじゃない。
優しく話し、丁寧に人を見るから、
素敵なんだよ」
その夜、不思議の国では、
誰かをからかうための言葉が、
少しだけ減ったのでした。
つづく

解説
いい意味での使い方は
例えば本当にお嬢様みたいな雰囲気だね、みたいに
優美さや育ちの良さを褒めるときに使います。
悪い意味だと、お嬢様で世間しらずに
甘やかされて育った人とからかう感じで使います。
オタク世界だとちょっと高飛車でツンデレっぽい
キャラのことをお嬢様キャラとよんで
愛情こめて話している場合もありますね。
つづく


