エスプレッソ (イースター2026年)
- x Happy
- 4月6日
- 読了時間: 3分
ローマの空は、どこか特別な光をまとっていた。


イースターの午後——街は静かで、どこか柔らかい。
普段なら賑わうカフェのテラスも、その日は少しだけ人が少ない。
家では家族と過ごす時間。
特に女性たちは、料理や祈りのために家にいることが多い日だった。
今日の夕食は家族みんなで手作りの豪華な食事がある。
楽しみだな、、、そう思いながら
今日の仕事を早く終わらせたいと願っていた。
それでも、ひとり仕事を終えた彼は、いつものカフェ席に座っていた。
エスプレッソの湯気が、ゆっくりと空にほどけていく。
ここでゆっくりしてから帰宅だ。
そこへ——
まるで風に紛れて現れるように、
不思議の国のアリスが現れた。
青いドレスの裾が、石畳にふわりと触れる。
「また会ったわね」
彼は少し驚いたように目を細め、それからすぐに笑った。
「君は……この街に似合わないのに、妙に馴染むね」
アリスはくすっと笑い、彼の向かいに腰を下ろした。
しばらく、何気ない沈黙が流れる。
遠くで教会の鐘が鳴った。
その音を聞きながら、アリスはふと、問いかけた。
「ねえ——卒業のときって、泣いたことある?」
とても静かな声だった。
彼は少しだけ考えるように、カップの縁を指でなぞる。
そして——
小さく、肩をすくめた。
「いや」
短く答える。
「早く卒業したかったからね」
そのまま続ける。
「泣くどころか……笑ってたよ」
アリスは少し驚いたように目を丸くする。
「笑ってたの?」
「そうさ」
彼は遠くを見る。
「やっと終わった、ってね。自由になった気がした」
「でも——」
アリスがそっと言う。
「寂しくは、ならなかったの?」
彼はその問いに、すぐには答えなかった。
風が吹いて、テーブルの紙ナプキンがまた揺れる。
そしてゆっくりと口を開く。
「そのときは、ならなかった」
少しだけ、間を置く。
「でもな……」
彼の目が、ほんの少しだけ過去に沈む。
「あとから来るんだよ」
静かに言う。
「終わったあとに、“あれは戻らない時間だった”って気づく」
アリスは何も言わず、ただ彼を見ている。
「教室で無駄に過ごした時間も、くだらない会話も、何もしてなかった日々も——」
彼は苦笑する。
「全部、あとから意味を持つ」
「だから私は、あのとき笑ったことを少しだけ後悔してる」
そう言って、また小さく笑った。
「少しくらい、泣いてもよかったのかもしれないな」
教会の鐘が、もう一度鳴る。
イースターの空は、どこまでも優しい。
アリスは立ち上がる。
「ねえ」
振り返りながら言う。
「今からでも、遅くないかもしれないわよ」
彼は首をかしげる。
「何が?」
アリスは微笑む。
「そのときの分、ちゃんと感じること」
風が吹く。
彼女の姿は、いつの間にか消えていた。
テーブルの上には、もう一つの空のカップ。
彼はそれを見つめながら、ふっと息を吐く。
そして、ほんの少しだけ——
今になって初めて、
胸の奥が、静かに締めつけられるのを感じていた。
(2026年イースターは4月5日の日曜日。
春分が基準で最初の満月の次の日曜と決まっている。
ヨーロッパではイースターは大切な行事です。
キリストの復活を祝い、希望と再生の象徴として
女性はこの日、お仕事をお休みすることが多いようです。)


