オデッセイ
- x Happy
- 6月3日
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オデッセイの夜
札幌の初夏の夕方。
街にはまだ少し涼しい風が残り、映画館のネオンが優しく輝いていた。
イソッタは白いブラウスに薄い青色のスカートを合わせ、待ち合わせ場所で小さく手を振った。
「クラウディオ!」
「チャオ、イソッタ!」
イタリアから来た友人、クラウディオはいつもの穏やかな笑顔を浮かべている。
今日は二人で映画を観る約束だった。
作品は、映画『オデッセイ』。 原題は『The Martian』。
宇宙に一人取り残された主人公が、知恵と努力で生き抜く物語だ。
映画が始まると、二人は静かにスクリーンへ引き込まれていった。
赤い火星の大地。
孤独。
絶望。
それでも諦めない主人公。
ジャガイモを育てながら生き延びようとする姿に、イソッタは思わず胸が熱くなった。
そしてクラウディオも何度か小さく頷いていた。
上映が終わる頃には、客席から自然と拍手が起こった。

二人も笑顔で席を立った。
映画館を出ると、夜風が気持ちいい。
「どうだった?」
とイソッタ。
クラウディオは少し考えてから答えた。
「人生に似てるね。」
「人生?」
「うん。誰でも火星に一人残されたみたいな時がある。でも少しずつ前に進めば、助けが来る。」
イソッタは微笑んだ。
「素敵な感想。」
「イソッタは?」
「私はね、希望のお話だと思った。」
二人はしばらく歩いた。
映画の余韻がまだ心に残っている。
するとクラウディオが突然言った。
「ところで、お腹空いた。」
イソッタは思わず笑った。
「私も。」
「問題がある。」
「何?」
「イタリアンにするか、お寿司にするか。」
「それは大問題ね。」
二人は真剣な顔をして立ち止まった。
「今日は映画が宇宙だったからイタリアンかな。」
とイソッタ。
「どうして?」
「火星だから赤いトマトソース。」
「なるほど。」
クラウディオは腕を組む。
「でも日本にいるなら寿司も捨てられない。」
「それも分かる。」
「マグロ。」
「美味しい。」
「サーモン。」
「美味しい。」
「ウニ。」
「最高。」
「じゃあ寿司?」
「でもマルゲリータも食べたい。」
二人はしばらく悩み続けた。
まるで国家の重要会議のようだった。
やがてイソッタが言った。
「じゃあさ。」
「うん?」
「今日はお寿司にしよう。」
「おお。」
「その代わり、次に会ったらイタリアン。」
クラウディオは満面の笑みになった。
「完璧な外交交渉だ。」
「でしょ?」
二人は寿司屋へ向かった。
カウンターに並び、
マグロ。
ヒラメ。
ホタテ。
サーモン。
〆さば。
次々と注文していく。
クラウディオは北海道の新鮮な魚に感動していた。
「これは本当に美味しい。」
「北海道のお魚だからね。」
「火星にも寿司があればいいのに。」
「ジャガイモ寿司?」
「それはたぶん違う。」
二人は声を上げて笑った。
帰り道。
夜空には丸い月が浮かんでいた。
火星ではなく、地球の月。
でも映画を観た後だからか、いつもより少しだけ特別に見える。
「今日は楽しかった。」
とイソッタ。
「僕も。」
とクラウディオ。
「次はイタリアンね。」
「約束。」
二人は月を見上げた。
映画の主人公のように遠い宇宙へ思いを馳せながら。
そして心の中では、次に食べるピザとパスタのことも、少しだけ考えていたのだった。
つづく
解説
(日常の温かさ)というお話で
クラウディオがでてきます。
このお話はそのつづきになってます。


