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二人の大根(体調にあわせる)

  • x Happy
  • 4月20日
  • 読了時間: 3分

更新日:4月21日

まだ少し寒い朝、空気は少しだけ張りつめていて、


キッチンの水も冷たい。


佐弥子は袖をまくり、大根をまな板

に置いた。


佐弥子は内蔵が強いとはいえない体質だ。


「今日は、ちゃんと整えないと」


胃が弱っている日は、ほんの少しの刺激でも負担になる。


だから彼女は、大根の“準備”に時間をかける。


皮は厚めにむく。繊維のかたい外側を取り除くためだ。


2センチほどの輪切りにしてから、角をくるりと落とす——面取り。


煮崩れを防ぐだけでなく、口当たりもやわらかくなる。


鍋に米のとぎ汁を入れて、大根を静かに沈める。


弱めの中火で、ふつふつと小さな泡が立つくらい。


「この時間が大事……」


10分ほど下ゆですると、えぐみが抜け、白さがやわらぐ。


水でさっと洗い、今度はだしの鍋へ。


昆布と鰹でとった澄んだだし。


そこに薄口しょうゆをほんの少し、塩ひとつまみ。甘みは加えない。


落とし蓋をして、ごく弱火で30分。


沸騰させないように、静かに、静かに。


やがて、大根はだしを吸い、内側からほのかに透けてくる。


箸を入れると、すっと抵抗なく沈む。


器に盛るとき、佐弥子は汁を少しだけかけた。


湯気とともに立ち上る香りは、ほとんど主張しない——ただ、やさしい。


一口。


舌に触れた瞬間にほどけ、だしの旨味だけがじんわり残る。


「これなら、大丈夫」


胃に落ちていく感覚が、穏やかで、安心できる重さだった。



その日の夕方、別の場所。



京子のキッチンには、軽快な音が響いていた。


「今日は体が軽いから、これくらいでいい」


皮は薄くむくだけ。


あえて外側の少し辛い部分も残す。


包丁を斜めに入れ、繊維に沿って細く細く千切りにしていく。


力を入れすぎない。刃を滑らせるように。


切った大根は、氷水にさっとくぐらせる。


長くさらさないのがコツだ。1分ほどで引き上げ、ざるにあげる。


「ここで水っぽくすると台無しだから」


キッチンペーパーで軽く押さえ、水気をしっかり切る。


このひと手間で、口に入れたときの“パリッ”が変わる。


ドレッシングはシンプル。


醤油 小さじ1、酢 小さじ1、ごま油 小さじ1/2。そこにほんの少しの砂糖で角を取る。


黒こしょうをひと振り。


食べる直前にさっと和える。


時間を置かない——それが命だ。


口に入れると、まず歯が跳ね返されるような食感。


シャキッ、と音がして、次に大根の辛味がすっと抜ける。


「いいね、この刺激」


酢の軽い酸味、ごま油の香り、そして大根そのものの力強さ。


噛むほどに、体が目を覚ますような感覚があった。


京子は箸を止めず、次々と口に運ぶ。


冷たさと歯ごたえが、体の内側を整えていく。


同じ大根でも——


火を入れて、やわらかく包み込む日と。


生のまま、シャキッと目を覚まさせる日がある。


それぞれの台所で、それぞれの体調に寄り添いながら、


一本の大根は、まったく違う“おいしさ”に変わっていくのだった。

 
 
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