再び半導体
- 歯科25City
- 4月3日
- 読了時間: 4分
春の終わり、横浜の古い織物工場に、ひとりの青年が立っていた。
名をRyouという。
かつてこの場所は、機械のリズムと人の息遣いが重なり、
日本の成長を織り上げていた。
だが今は、静寂だけが残っている。油の匂いも、糸の舞いも、
すべて過去のものだった。
祖父はここで働いていた。
「日本はな、糸で世界と勝負してたんだ」
幼い頃、そう誇らしげに語っていたのを思い出す。
だが、その糸はいつしか海を越えた。
1980年代。
日本の繊維産業は頂点を迎えていたが、同時に転機でもあった。
人件費の上昇。円高。
企業たちはコストを求めて海外へと工場を移し始める。
そして、舞台に現れたのが中国だった。
広大な土地、豊富な労働力、そして国家の後押し。
やがて中国は、世界の繊維工場へと変わっていく。
Ryouはスマートフォンで古い統計を見つめる。
数字は冷酷だった。
日本は「技術」を残し、
中国は「生産」を握った。
その差は、やがて国の経済そのものの速度差へと広がっていった。
「どうして日本は遅れたんだろうな…」
独り言が、空の工場に吸い込まれる。
繊維だけではなかった。
IT、デジタル、そして半導体。
かつて世界を席巻した日本の半導体は、
90年代以降、急速に存在感を失っていく。
アメリカの設計力。
台湾や韓国の製造力。
それぞれが分業で進化する中、日本はその流れに乗り切れなかった。
気づけば、日本は“かつての強者”と呼ばれるようになっていた。
だが、物語はここで終わらない。
Ryouは、あるニュース記事を開いた。
そこには新しい言葉が並んでいた。
「半導体復活」
「次世代技術」
「国内回帰」
日本は再び動き始めていた。
熊本に新しい工場。(熊本菊陽町)
そして、北海道・千歳にも。(千歳美美ワールド)
雪深い大地に、巨大な半導体工場が今まさに建設されている。
Rapidusという名の国家プロジェクト。
最先端の2ナノメートルプロセスを目指し、IBMの技術を核に、日本企業が総力を結集した。
零下の寒さの中、鉄骨が組み上がり、クリーンルームの基礎が固められていく。
工事は難航した。
凍土を掘り、風雪に耐え、資材を運び込む作業員たちの姿が、
ドローン映像で何度も報じられていた。
「北海道の冬は容赦ない。でも、ここでしかできない仕事だ」
現地の責任者が、そうインタビューで語っていたのを亮は覚えている。
広大な土地と、静かな決意。
それは、かつての織物工場が立ち並んでいた頃の日本を、どこか思い出させた。
最先端ではないが、確かな品質。
そして、素材・装置・精密技術という“見えない強さ”。
熊本も、千歳も、派手さはない。
だが、それこそが日本らしい。
「派手じゃないけど…日本らしいな」
Ryouは少しだけ笑った。
数日後、彼は新しい職場に立っていた。
そこは織物工場ではない。
半導体関連の部品を作る工場だった。
白いクリーンスーツに身を包み、
彼はシリコンウェハーを扱う。
糸ではない。
だが、どこか似ていた。
目に見えない精度。
繊細な工程。
積み重ねる技術。
祖父の言葉がよみがえる。
「日本はな、丁寧な仕事で勝つ国だ」
休憩時間、亮は窓の外を見る。
遠くに港。
さらにその先に、海の向こうの国々。
中国は今も巨大な生産力で世界を動かしている。
一方、日本は北の大地・北海道で、
静かに、しかし着実に工事を進めている。
速さでは勝てない。
だが、深さならどうだろう。
千歳の雪の中で生まれる工場は、ただの建物ではない。
それは、失われた時間を紡ぎ直す、新しい「日本の糸」だった。
夜、工場の灯りが静かに輝く。
かつて糸を紡いだ国は、
いま、電子の流れを紡ぎ直している。
熊本の光と、千歳の灯り。
二つの場所で、日本は同じことを繰り返している。
遅れた時間は戻らない。
だが、物語はいつでも書き直せる。
Ryouはそっと手を動かす。
それは、祖父の時代から続く
「日本の仕事」そのものだった。
そして今、北海道の凍てつく大地で、同じ手が、
未来のウェハーを支えようとしている。
注釈 シリコンウエハーとは、
高純度の単結晶シリコンを薄くスライスし、
鏡面に研磨した半導体チップの基盤のこと。
現代の電子機器には欠かせない素材です。
シリコンウエハー世界トップの会社は、
信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)
高性能な2㎚ウエハー
最先技術があります。


