春のてんぷら
- x Happy
- 5月5日
- 読了時間: 4分
春のやわらかな光が森に差し込むころ、
イソッタは、ふしぎなかごを手に山へ出かけました。
-----春の山菜を探すイソッタ---------
森の奥で、イソッタは次々と宝物を見つけていきます。
「まあ、これが春の香りなのね!」
小さく顔を出すほろ苦いふきのとう。
春の王様といわれているので、いつも誇らしげなタラの芽。
くるりと巻いた形が愛らしいこごみ。
そして、みずみずしく伸びるシャキシャキのウド。
その中でも、ひときわ強い香りを放つのは——
「これが、山菜の王様……行者ニンニクね!」
イソッタは胸いっぱいに春を吸い込みながら、かごいっぱいに山菜を集めました。
------イソッタの天ぷらづくり---------
森の中に現れた小さなキッチン。
まるで夢のように、道具たちが勝手に並び始めます。
「さあ、今日は春の天ぷらパーティーよ!」
イソッタはふんわりと衣を作り、
山菜たちに優しくまとわせました。
ジュワァァ……
油の中で、春が音を立てて開いていきます。
ふきのとうはほろ苦い香りを放ち、
タラの芽はサクッと王様らしく立ち上がり、
こごみは軽やかに踊り、
ウドはシャキッとした音を残します。
行者ニンニクは——
「まあ、なんて元気な香り!」
まるで森そのものが揚がったようでした。
---- 春のごちそう------
木のテーブルの上に並んだ、天ぷらの盛り合わせ。
黄金色に輝くそれは、ただの料理ではありません。
それは、春という季節を閉じ込めた物語。
「いただきます」
イソッタが一口食べると、
森の風、土の匂い、雪解けの水、
すべてが口の中に広がりました。
そのとき——
「春は、一瞬だから美味しいのよ」
どこからか聞こえた声に振り向くと、
そこにはもう誰もいません。
でも、イソッタはにっこり笑いました。
「そうね。だから、こんなに素敵なのね」
春の天ぷらは、
不思議の国でも、いちばんやさしいごちそうでした。

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春の天ぷらを味わい終えたあと、
イソッタは、ふと不思議な風に誘われました。
「まだ、知らない春があるみたい…」
その瞬間、森の奥に小さな扉が現れます。
開けてみると——そこは、どこか陽気で、香ばしい香りに満ちた世界でした。
------イタリアの風が吹くキッチン---------
そこは、太陽の光がたっぷり差し込むキッチン。
オリーブオイルの香りと、ハーブの風が混ざり合っています。
「ベンヴェヌータ!(ようこそ!)」
”Benvenuta”
振り向くと、明るい笑顔の料理人が立っていました。
彼女の名前は、ルチア。
「あなたが春を揚げる子ね?」
イソッタは少し驚きながらも頷きます。
「ええ、日本の山菜で天ぷらを作ったの」
ルチアは楽しそうに笑いました。
「じゃあ今度は、イタリアの春を揚げてみましょう!」
-------イタリア風 “天ぷら” のひみつ---------
ルチアはボウルを取り出し、軽やかに言います。
「これは“フリット”。あなたの天ぷらの、遠い親戚みたいなものよ」
衣にはほんの少しの塩と炭酸水。
そして、揚げるのは——オリーブオイル。
「軽やかで、香りを楽しむの」
ズッキーニの花、海老、小魚、春野菜。
次々と油の中へ入れると、
パチパチパチ…
日本の天ぷらとは少し違う、
どこか陽気でリズミカルな音が広がります。
二つの春が出会う瞬間
「ねえ、ルチア」
イソッタは自分のかごをそっと差し出しました。
そこには、日本の山菜たち。
「これも、揚げてみてもいい?」
ルチアの目が輝きます。
「もちろん!」
ふきのとう × オリーブオイル
タラの芽 × レモン
行者ニンニク × 軽い塩
二つの世界が、ひとつの鍋の中で出会いました。
------ 新しい物語の味--------
出来上がったのは、
見たことのない“春の盛り合わせ”。
ひと口食べたイソッタは、思わず目を閉じます。
「……あたたかい」
日本の繊細な春と、
イタリアの陽気な春が、
やさしく溶け合っていました。
ルチアも微笑みます。
「料理ってね、旅なのよ」
イソッタは小さく頷きました。
「じゃあ、私は——春を旅する料理人ね」
そのとき、またあの風が吹きます。
次はどこの国の春に出会うのか——
それは、まだ誰も知りません。
けれどひとつだけ、確かなこと。
「美味しいは、世界をつなぐ」
イソッタの新しい物語が、また静かに始まりました。
続く


