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肯定感、効力感

  • x Happy
  • 4月20日
  • 読了時間: 3分

夜の帳が静かに降りる頃、アリスはふとしたきっかけで、


見慣れない橋の上に立っていました。


石ではなく木でできたその橋の下には、ゆるやかに流れる川。


提灯の灯りが水面に揺れ、遠くからは三味線の音が聞こえます。


「ここは……どこ?」


振り返ると、そこは江戸の町でした。


アリスはふらりと歩き出し、小さな長屋の前で足を止めます。


戸の隙間から、かすかにすすり泣く声が聞こえました。


中には、まだ若い娘が一人。手には縫いかけの着物。


「どうしても、うまくいかないの……」


娘は、針を持つ手を震わせながら言いました。


アリスはそっと声をかけます。


「ねえ、その着物、とても素敵よ」


娘は驚いて顔を上げました。


「嘘よ……私は何をやってもダメなの。周りの人はみんな上手なのに」


アリスは少し考えてから、こう言いました。


「それはね、“自分のことをどう思っているか”と、“自分に何ができると思っているか”が、ごちゃごちゃになっているの」


娘は首をかしげます。


「自己肯定感」と「自己効力感」


アリスは、畳に指で円を描きながら説明しました。


「自己肯定感っていうのはね、“うまくできても、


できなくても、自分には価値がある”って思える気持ちなの」


娘は静かに聞いています。


「そして自己効力感は、“やればできるかもしれない”“


工夫すれば上手くいくかも”っていう、未来への手応えみたいなもの」


「……違うの?」


「ええ、違うの。でもね、よく一緒にされてしまうの」


娘はぽつりと言いました。


「私はどっちもないわ」


アリスはやさしく首を振ります。


「いいえ、違うわ。今あなたは、“うまくできない自分”を見て、


“価値がない”と思ってしまっている。でもそれは、


本当は別のことなの」


アリスは、娘の手から針を受け取りました。


「ちょっと見せて」


縫い目は確かに少し歪んでいました。


でも、布の選び方や色の合わせ方は、とても美しい。


「ほら、この色の組み合わせ、とても素敵」


娘は驚きます。


「そんなところ、誰も見てくれない」


「見てるわよ。今、私が」


アリスは続けます。


「自己肯定感は、“できるかどうか”じゃない。


“ここにいていい”って思えること」


「……」


「そして自己効力感は、“じゃあ次はどうやったらもう少し上手くできるか”


って考えること」


アリスは、ゆっくりと一針だけ縫ってみせました。


「ほら、少しだけ間隔を揃えると、こうなる」


娘は息をのむように見つめます。


「できそう……」


その一言が、静かにこぼれました。


「それが自己効力感よ」


アリスは微笑みます。


「“できるかもしれない”って思えた瞬間」


「……でも、もしまた失敗したら?」


「いい質問ね」


アリスは少しだけ悪戯っぽく笑いました。


「その時はね、“それでも私はここにいていい”って思うの。


それが自己肯定感」


外では風が吹き、提灯が揺れました。


娘はもう一度針を持ちます。今度は、ほんの少しだけ手の震えが収まっていました。


一針、また一針。


完璧ではないけれど、確かに前より整っています。


「……少し、楽しいかもしれない」


その言葉に、アリスは静かに頷きました。


「それでいいの。それが一番大事」


やがて夜が深まり、アリスは再び橋の上に立っていました。


振り返ると、長屋の灯りはまだ消えていません。


小さな灯りが、誰かの「できるかもしれない」を照らしているようでした。


そしてアリスは、そっとつぶやきます。


「自分を好きになるのは、上手くなってからじゃないの。


上手くいかない時でも、自分を手放さないことから始まるのよ」


その言葉は、江戸の夜に溶けていきました。 


解説

自己肯定感は自分の存在そのものを受け入れる力。


自己効力感は、目標を達成できるという確信のこと、

きっとうまくいくという感覚のこと。

 
 
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