肯定感、効力感
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- 4月20日
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夜の帳が静かに降りる頃、アリスはふとしたきっかけで、
見慣れない橋の上に立っていました。
石ではなく木でできたその橋の下には、ゆるやかに流れる川。
提灯の灯りが水面に揺れ、遠くからは三味線の音が聞こえます。
「ここは……どこ?」
振り返ると、そこは江戸の町でした。
アリスはふらりと歩き出し、小さな長屋の前で足を止めます。
戸の隙間から、かすかにすすり泣く声が聞こえました。
中には、まだ若い娘が一人。手には縫いかけの着物。
「どうしても、うまくいかないの……」
娘は、針を持つ手を震わせながら言いました。
アリスはそっと声をかけます。
「ねえ、その着物、とても素敵よ」
娘は驚いて顔を上げました。
「嘘よ……私は何をやってもダメなの。周りの人はみんな上手なのに」
アリスは少し考えてから、こう言いました。
「それはね、“自分のことをどう思っているか”と、“自分に何ができると思っているか”が、ごちゃごちゃになっているの」
娘は首をかしげます。
「自己肯定感」と「自己効力感」
アリスは、畳に指で円を描きながら説明しました。
「自己肯定感っていうのはね、“うまくできても、
できなくても、自分には価値がある”って思える気持ちなの」
娘は静かに聞いています。
「そして自己効力感は、“やればできるかもしれない”“
工夫すれば上手くいくかも”っていう、未来への手応えみたいなもの」
「……違うの?」
「ええ、違うの。でもね、よく一緒にされてしまうの」
娘はぽつりと言いました。
「私はどっちもないわ」
アリスはやさしく首を振ります。
「いいえ、違うわ。今あなたは、“うまくできない自分”を見て、
“価値がない”と思ってしまっている。でもそれは、
本当は別のことなの」
アリスは、娘の手から針を受け取りました。
「ちょっと見せて」
縫い目は確かに少し歪んでいました。
でも、布の選び方や色の合わせ方は、とても美しい。
「ほら、この色の組み合わせ、とても素敵」
娘は驚きます。
「そんなところ、誰も見てくれない」
「見てるわよ。今、私が」
アリスは続けます。
「自己肯定感は、“できるかどうか”じゃない。
“ここにいていい”って思えること」
「……」
「そして自己効力感は、“じゃあ次はどうやったらもう少し上手くできるか”
って考えること」
アリスは、ゆっくりと一針だけ縫ってみせました。
「ほら、少しだけ間隔を揃えると、こうなる」
娘は息をのむように見つめます。
「できそう……」
その一言が、静かにこぼれました。
「それが自己効力感よ」
アリスは微笑みます。
「“できるかもしれない”って思えた瞬間」
「……でも、もしまた失敗したら?」
「いい質問ね」
アリスは少しだけ悪戯っぽく笑いました。
「その時はね、“それでも私はここにいていい”って思うの。
それが自己肯定感」
外では風が吹き、提灯が揺れました。
娘はもう一度針を持ちます。今度は、ほんの少しだけ手の震えが収まっていました。
一針、また一針。
完璧ではないけれど、確かに前より整っています。
「……少し、楽しいかもしれない」
その言葉に、アリスは静かに頷きました。
「それでいいの。それが一番大事」
やがて夜が深まり、アリスは再び橋の上に立っていました。
振り返ると、長屋の灯りはまだ消えていません。
小さな灯りが、誰かの「できるかもしれない」を照らしているようでした。
そしてアリスは、そっとつぶやきます。
「自分を好きになるのは、上手くなってからじゃないの。
上手くいかない時でも、自分を手放さないことから始まるのよ」
その言葉は、江戸の夜に溶けていきました。
解説
自己肯定感は自分の存在そのものを受け入れる力。
自己効力感は、目標を達成できるという確信のこと、
きっとうまくいくという感覚のこと。


