NovelTIME 八丁堀
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- 3月23日
- 読了時間: 4分
更新日:3 日前
please stop by if you have time
丸の内のOLの夏美は
今日も仕事帰り
東京の銀座から新富町を抜けて、
散歩している。
でも散歩ならいいのだけどちょっと疲れて
仕事を終えて、帰宅途中なのだ。
ウインドウショッピングしてから銀座を通って
結局、運動の為に歩くことも多い。
夜の八丁堀は治安が良く、不思議と音が吸い込まれるような静けさを持っている。
交番が夏美の住まいの近くにあることも
安心感がある。
江戸時代に埋め立てしたらしい八丁堀。
この周辺は小さな橋があって、
夏美はここをとても気に入っている。
それに中央大橋の周辺の桜並木はとても美しい。
ビルとビルの間の下には墨田川から分岐した川があり
そしてその向こうにはタワーマンションが見える。
高層ビルの隙間に、ひっそりと残された細い綺麗な川。
そこに架かる小さな橋を渡るとき、夏美はいつも妙な既視感に襲われていた。
まるで、ここだけ時間が歪んでいるかのような――。
その夜も、夏美は仕事帰りにその橋を歩いていた。
ふと、風が止んだ。
いや、止んだのではない。世界が一瞬、息を潜めたのだ。
次の瞬間、足元のアスファルトが消えた。
代わりに現れたのは、湿った土の感触と、ぼんやりと灯る行灯の明かり。
鼻をつくのは、川の匂いと、どこか懐かしい炭の煙。
「――おい、そこで何をしている」
低く、しかし鋭い声。
振り返ると、提灯を手にした男が立っていた。
着物に帯、そして鋭い眼光。岡っ引き――そんな言葉が、頭の奥から浮かび上がる。
「ここは……どこですか?」
夏美の問いに、男は眉をひそめた。
「妙なことを言う奴だな。ここは八丁堀だ。見ればわかるだろう」
八丁堀。
夏美の足もとは紫と青の花の鼻緒のついた
草履をはいていた。
そこにあったのは夏美の知る街ではなかった。
木造の家々、行き交う人々の衣装、そして暗がりに潜む影。まるで――江戸時代。
混乱している耳に、かすかな歌声が届いた。
子どもの声だ。
「いちに、いちに――」
細い路地の奥で、少女が一人、縄跳びをしていた。藁で編まれた粗末な縄。
それでも彼女は楽しそうに、軽やかに跳んでいる。
その姿に、なぜか強く惹かれた。
「危ないところで遊ぶな」
岡っ引きの男が声をかける。少女はぴたりと動きを止め、振り返った。
大きな瞳が、まっすぐにこちらを見た。
その瞬間、胸の奥がざわついた。
「お侍さん、この人だれ?」
少女は無邪気にそう言って、夏美に近づいてきた。
距離が縮まるたび、奇妙な感覚が強まる。
彼女の存在が、あまりにも“はっきり”しているのだ。
夢でも幻でもない、確かな重み。
「ねえ、おねえさんもやる?」
そう言って、彼女は縄を差し出した。
夏美は戸惑いながらも、それを受け取る。
縄はざらついていて、掌にかすかな痛みを残した。
「こうやるの」
彼女は夏美の前に立ち、縄を回し始める。
江戸の日常の風景、、、
子供の時にとんだ縄跳びってもっと軽かったはずなのに、、、
息が切れる
ぎこちなく、しかし確かに。
その瞬間、時間がまた歪んだ。
跳ぶたびに、景色が揺れる。
江戸の町と現代の街灯が、交互にちらつく。
「――やめろ!」
岡っ引きの声が遠くで響く。
だが少女は笑っていた。
「もっと、もっと!」
縄は速くなる。
夏美の鼓動も速くなる。
ああこの速さではついていけないかも、、
彼女の笑顔が、次第に異様なものに変わっていく。
どこかで見たことがある――いや、知っているはずがないのに、懐かしい。
「あなた……どこかで……」
言いかけたとき、彼女の表情がふっと変わった。
「やっと来てくれた」
その声は、子どものものではなかった。
縄が止まる。
同時に、世界も止まる。
気がつくと、私は再び橋の上に立っていた。
車の音、街の明かり、いつもの八丁堀。
向こうに見えるタワーマンションの部屋の明かりが
宝石のようにキラキラまだらに光っている。
だが、右手には何かが残っていた。
藁の縄の切れ端。
そして、耳の奥で、あの声が囁く。
――また、遊ぼうね。
その夜からだ。
夏美は、あの橋を避けられなくなった。
つづく
解説
東京駅前で仕事していたとき
八丁堀に住んでいました。
その風景をなつかしみながら
江戸時代と融合させて書いてみました。


