2026鈴鹿開幕戦
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- 4月7日
- 読了時間: 3分
「風の中のアリス ― 鈴鹿2026 開幕戦 ―」
春の朝、
鈴鹿サーキット は、まだ静かな緊張に包まれていた。
だがその空気の中に、ひとつだけ“異質な存在”があった。
ふわふわと浮かぶ、小さな白いかたまり。
名前は――マシュ。
マシュは、ただのマシュマロではない。
もともとは、ウスベニタチアオイの根から生まれた“癒しの記憶”。
2500年前、誰かの咳を止めるために作られた、甘い薬の心。
だから彼は、少しだけ“人の気持ちが分かる”。
誰かが我慢しているとき。
誰かが悔しさを飲み込んだとき。
その“言葉にならない部分”に、そっと触れることができる存在だった。
「ここ……胸がざわざわする」
マシュは空気を感じ取りながら言った。
隣には、青いドレスの少女――
不思議の国のアリス 。
「いい勘してるわね」
アリスは少しだけ微笑む。
「ここは、“速さ”の裏に“感情”が渦巻いてる場所よ」
そのとき、ピットの奥から声がした。
「まだ足りない……まだ速くできるはずだ」
ひとりの若いドライバーが、拳を握りしめていた。
マシュは、ぴくりと反応する。
「……この人、苦しい」
「どうして分かるの?」とアリス。
マシュは少し照れながら答えた。
「ぼく、甘いだけじゃないから。
“痛みの残り方”が分かるんだ」
そこへ突然、
「遅刻だ遅刻だ大変だー!」
と叫びながら走ってきたのは
白ウサギ 。
手にはストップウォッチ。
「時間が足りない!全部が遅れてる!」
その姿を見て、マシュは小さくつぶやく。
「この人……ずっと急いでるのに、安心してない」
ピットの上から、くすっと笑い声。
「いい観察だねえ」
現れたのは
チェシャ猫 。
「君、“ただの甘いお菓子”じゃないな?」
マシュは少しだけ考えてから答えた。
「ぼくはね――
“やさしさの記憶”なんだと思う」
やがて、スタートの時間。
赤いランプが並ぶ。
緊張が張り詰める中、マシュは震えていた。
「……ぼく、ここで何ができるのかな」
アリスは静かに言う。
「あなたは“変えよう”としなくていいの」
「え?」
「“寄り添う”だけでいいのよ」
ブラックアウト。
マシンが一斉に飛び出す。
轟音、風、衝撃。
その中で、先ほどの若いドライバーがミスをした。
タイヤが滑る。
体勢が崩れる。
観客席がざわめく。
その瞬間、マシュは動いた。
「……大丈夫」
誰にも聞こえない声で、彼はドライバーの胸に触れた。
それは言葉ではなく、
“思い出”のような感覚だった。
幼い頃、誰かに励まされた記憶。
転んでも立ち上がった日の温もり。
ドライバーの呼吸が、少し変わる。
「……まだいける」
再びアクセルを踏み込んだ。
レースは続き、やがて終わる。
勝者が歓喜し、敗者がうつむく。
けれどマシュは、どちらにも近づいた。
勝った者には――
「おめでとう。でも、無理しすぎないでね」
負けた者には――
「悔しいよね。でも、それって大事な気持ちだよ」
アリスはその様子を見て、静かに言った。
「あなた、“甘さ”の意味を知ってるのね」
マシュは少し考えてから答えた。
「うん。甘さってね……
“弱くなってもいい時間”を作ることだと思う」
夕暮れ。
サーキットは静かになっていく。
観覧車の光が、ゆっくり回る。
「ねえアリス」
「なあに?」
「ぼく、ここ好きかもしれない」
「どうして?」
「みんな必死だから。
だからこそ、ほんの少しの優しさが、すごく大きくなる」
アリスは微笑んだ。
「それが、あなたの役目ね」
その夜、鈴鹿にこんな噂が生まれた。
「レースで心が折れそうになったとき、
ふわっと甘い香りがしたら――」
「それは、“マシュ”がそばにいる証拠だ」
そして今日も、
不思議の国のアリス とマシュは、
速さの中にある“人の心”を探しながら、
静かに走り続けている。
解説。今回はサーキットにマシュマロを登場させてみました。
マシュマロは古代エジプ時代、薬草から生まれたお菓子です。


